強迫性障害
obsessive-compulsive disorder

強迫性障害

強迫性障害とは、頭に浮かんだ考えが頭から離れず、それを打ち消すための行動を繰り返してしまう状態です。放置していると徐々に症状がエスカレートしていくことが多く、重症になると日々の行動が大きく制限されて日常生活にさまざまな支障をきたすため、早期の治療が必要です。

強迫性障害とは

強迫性障害は、「ドアに鍵をかけたかどうか心配で、戸締まりを何度も確認する」「手が汚れていると思い込んで手洗いを繰り返す」など、自分の意思に関係なく、ある考えやイメージ、駆り立てられるような衝動にとらわれ(強迫観念)、その不安や気がかりを取り除くために何度も同じ行動(強迫行為)を繰り返してしまう病気です。

実際、このような不安や思いにとらわれることは誰にでもありますが、強迫性障害の方は、その反応が過剰になるのが特徴で、しばしば常識や科学的事実にそぐわない不合理な方法をとることもあります。患者さん自身、その行動が無意味でやりすぎだということを認識し、何とか制御しようと抵抗を試みるものの、耐え難いほどの強い不安感や苦痛に圧倒されて思うようにならず、心身ともに激しく疲労し、精神的な苦痛を感じています。

国内の強迫性障害の発症率は50~100人に1人程度と言われていますが、生活に不便を感じつつも病気だと気付いていないケースや、症状が重くて病院に来ることができないケースなどもあるため、実際の患者数はさらに多くなることが推測されます。

患者さんの多くは10~20代に発症しており、発症数に大きな男女差はありませんが、男性は子供の頃に発症する割合が多いのに対し、女性は20代以降、妊娠や出産といったライフイベントをきっかけに発症するケースが多くなっています。

強迫性行動がエスカレートすると、患者さんは日常生活の大半を強迫行為に費やすようになり、仕事や勉強など本来やるべきことができなくなって日常生活に深刻な影響を及ぼします。

また、汚染への恐怖から家から出られなくなって引きこもってしまったり、コントロールできない症状に疲れて精神が不安定になり、うつ病を発症したりすることもあるため、適切な治療が必要です。強迫性障害は、適切な治療を続けることで症状を改善させ、生活の質を上げることが可能ですが、症状が重くなればなるほど治療は難しくなり、治療期間も長くなります。

強すぎるこだわりで生活に不便を感じている場合には、放置せず早期にご相談ください。

強迫性障害のセルフチェック

以下は強迫性障害で多く見られる症状です。

該当する症状がある場合には強迫性障害の可能性がありますので早期にご相談ください。

  • 汚れや細菌感染などが心配で、何十回、何百回も手洗いを繰り返してしまう
  • 外出時、戸締まりやガスの元栓、電気のスイッチなどが気になってしつこく確認する
  • 実際には何も起きていないのに、誰かに危害を加えたのではないか気になる
  • 自分で決めた手順にこだわり、その通りにいかないと不安になる
  • 物の置き方にこだわりがあり、その通りになっていないと直したくなる
  • ラッキーナンバーや不吉な数字など、数字に異常なこだわりがある
  • 強いこだわりで生活が不便に感じ、こだわることを止めたいのに止められない

強迫性障害の原因

強迫性障害の詳しい発症のメカニズムは分かっていませんが、近年では脳の機能障害により、神経細胞から放出されるセロトニン*1の量が少なくなることが原因ではないかと考えられています。

また、遺伝や気質、環境なども発症に関与していると言われています。

実際、幼少期や思春期に強迫性障害を発症した方や、チック障害*2がある方などは遺伝による影響が強いと考えられます。しかし、親が強迫性障害だからといって必ず発症する訳ではなく、遺伝的な発症しやすさに加え、生育歴や性格などの気質的要因を併せ持ち、そこに人間関係のトラブルやストレスの大きい出来事などの環境要因が重なることで発症すると考えられています。

*1脳内の神経伝達物質であり、ドパミンやノルアドレナリンを制御して精神を安定させる効果がある。

*2本人の意思に関係なく、まばたきや咳払い、首振り、奇声などが出てしまう病気(チック症)。強迫性障害に多く併存することが知られている。

  • 遺伝・生理的要因

脳内の神経伝達物質であるセロトニンの機能障害、神経回路の異常、遺伝、女性ホルモンの変化など

  • 気質的要因

几帳面、神経質、潔癖症、完璧主義、こだわりの強い性格、責任感が強い、自己肯定感が低い、または幼少期に教え込まれた事、感情や行動を強く否定された出来事など

  • 環境要因

いじめ、不登校、虐待、ハラスメントなどの人間関係のトラブル、仕事上の強いストレスを引き起こす出来事、受験、就職、妊娠、出産といったライフイベントなど

強迫性障害の症状

強迫性障害は、強迫観念(とらわれ)と強迫行為(打ち消すための行為)の症状がセットで起こるのが特徴です。これまでは不安や恐怖によって生じる不安障害の1つと考えらえていましたが、嫌悪感や道徳心と結びついて生じるケースも多いことから、今では思考や行動の病気であると考えられています。強迫性障害のおもな症状には以下のようなものがあります。

※症状の内容や程度は患者さんによって異なり、複数の症状を併せ持っている場合もあります。

  • 不潔恐怖と洗浄

自分や自分の周りのものがウイルスや細菌、排泄物などに汚染されていると思い込み、手洗いや入浴、洗濯を繰り返す。自分だけでなく、家族などの周囲の人にも同じ行動を強要することがある。

また、汚染されることを恐れてドアノブや手すり、つり革などを触ることができなくなる。重症になると家の外は全て汚染されていると思ってしまい、外出できなくなる。

  • 加害恐怖

「刃物が近くにあると人を傷付けてしまのではないかと思う」「お店に行くと物を盗ってしまうのではないかと思う」など、過去に起きていないにも関わらず、自分が誰かに危害を加えてしまうのではないかという考えにとらわれる。

例えば、車の運転をしていて誰かを轢いたのではないかと不安になり、車を降りて何度も確かめる。さらに、新聞やテレビなどにひき逃げのニュースになっていないか確認したり、直接、警察や周囲の人に確認したりする。進行すると車の運転を避けるようになることもある。

  • 確認行為

外出する際、戸締まりやガス栓、電気のスイッチなどが気になり確認を繰り返す。

指差し確認、手で触って確認する、じっと見張っているなど、過度な確認を繰り返し、本来やらなければいけないことができなくなる。出勤、待ち合わせなどの約束があっても、確認のために帰宅してしまうこともある。

  • 儀式行為

物事を行う手順にこだわり、その通りに行わないと何か不吉なことが起きると考えてしまう。

どんな時も同じ順番や方法で進めようとして、順序を間違えると最初からやり直そうとする。

呪文を唱えるなど、根拠のない自らのルールによる儀式を家族や周囲に要求するケースもある。

  • 数字へのこだわり

不吉な数字やラッキーナンバーなどに異常にこだわりがあり、時間、回数、順番、寸法などの数字について縁起を担ぐレベルを超えて過度に気にする。例えば、4や9、13などの数字を不吉だと思い込み、病院の番号札にそれらが含まれているといても立ってもいられないほど不安を感じる。

  • 物の配置・対称性へのこだわり

物の配置にこだわりがあり、正しい位置に置かれているか、左右対称であるかなどが過度に気になる。家具や小物(リモコン、スリッパなど)がその通りに置かれていないと不安になり、気になって仕方がない。

  • 強迫性障害の「巻き込み」

「巻き込み」とは、患者さんが他人を自分の強迫行為や強迫思考に巻き込む行為を指します。例えば、患者さんが汚染恐怖を抱えている場合、他人に手を洗わせたり、特定の物に触れないように要求することがあります。この巻き込み行動は、家族や友人にとって非常に負担となることがあり、結果として人間関係に悪影響を及ぼすこともあります。巻き込みには以下のような種類があります。

確認行為の巻き込み: 患者さんが家族に対して、何度も確認を求める(例えば、ドアがロックされているか、ガスが切れているかなど)。

儀式行為の巻き込み: 患者さんが特定の儀式行為を他人にも強要する(例えば、特定の順番で物を並べる、手洗いの手順を指示するなど)。

保証の巻き込み: 患者さんが繰り返し保証を求める(例えば、病気にかかっていないこと、罪悪感を感じる必要がないことなどについて)。

強迫性障害の診断

WHOの定める診断基準(ICD-10)では、強迫観念や強迫行為、またその両方が2週間以上続き、毎日苦痛を感じている、もしくは生活に支障をきたしている場合を強迫性障害と定めています。

問診では患者さんやご家族からどのような強迫観念や強迫行為にお困りになっているか詳しいお話を伺い、症状に応じた治療法を選択します。

強迫性障害の治療

強迫性障害の治療は、薬物療法と精神療法(認知行動療法)を組み合わせて行います。
まず始めに薬物療法を行い、患者さんの状態を安定させた上で認知行動療法を行うのが一般的です。

薬物療法

強迫観念によるとらわれを減らし、気持ちを落ち着けるためにお薬の服用を行います。

フルボキサミンやパロキセチンといった抗うつ薬(SSRI*4)を一定期間継続することで気持ちが落ち着き、余裕が生まれます。うつ病に比べると高用量の薬が必要ですが、服用開始直後は、口の乾き、吐き気、便秘、下痢などの副作用が現れることがあるため、最初は少量から服用を開始し、様子を見ながら服薬量を徐々に増やします。

通常、2~3週間程度から徐々に効果が現れますが、SSRIの効果が十分得られない場合は、SSRI に非定型抗精神病薬を併用する増強療法を行います。

*4セロトニン再取り込み阻害薬のこと。セロトニンの働きを強める作用がある。

精神療法(暴露反応妨害法)

強迫性障害の代表的な精神療法(認知行動療法)で、強迫観念による不安に立ち向かい、強迫行為を行わないで我慢する方法です。強迫性障害の方は恐怖を引き起こす刺激(トリガー)に遭遇すると強迫観念を生じ、それを打ち消すための強迫行為を行いますが、またすぐに不安な状態に戻ってしまうため、延々と強迫行為を繰り返します。暴露反応妨害法は、このような負の連鎖を断ち切るのが目的で、「手が汚れるものを触っても手洗いをせずに我慢する」「カギをかけたか心配になっても、家には戻らない」など、強迫による症状にあえて晒し、少しずつ慣れていくことで不安を減らし、強迫行動をとらなくてもいられるようにしていきます。

暴露反応妨害法は、認知的タイプの患者さんに適した方法ですが、これまで避けてきた事に立ち向かうことは大きなストレスになるため、薬物療法の効果が現れ、患者さんの状態が改善してからスタートすることが大切です。

よくある質問

1. 受診が必要な目安を教えてください。

強迫性障害に多く見られる戸締まりや手洗いを繰り返すといった行動は、生活の中でも日常的に行われる動作であり、慎重な性格や潔癖症、きれい好きなどと混同されがちです。

ご自身が行動をコントロールできているかどうかが重要なポイントであり、ご本人がつらいと感じている時はもちろん、仕事や勉強が手に付かなかったり、引きこもりがちになったりしている場合には治療が必要です。また、以前よりも表情が暗く元気がない、笑わなくなったと感じる場合には、うつ病を併発している可能性もありますので、できるだけ早く受診されることをおすすめします。

2. 強迫性障害を発症した場合、家族はどのように対応したら良いですか?

まずはサポートをしていくご家族が、強迫性障害を正しく理解していただくことが大切です。

患者さんは常に強迫観念と強迫行為に追われ、日々、想像を絶する苦しい思いと戦っています。

治療中、強迫症状を抑えようとしてもうまく対処できない時は、責めたり指摘したりせず、努力している患者さんを理解し、焦らずに治療に取り組めるように「ゆっくり治していこう」「少しずつ良くなっているよ」などと優しく声をかけ、支えていきましょう。

ただし、強迫性障害は、ご家族が巻き込まれてしまうケースも多く、確認行為や同意を求めてくることがありますが、一時しのぎでその行為や同意に協力してしまうのは逆効果であり、患者さんの強迫観念に対する感情がさらに強まる可能性がありますので注意が必要です。

ご家族の方が強迫行動に巻き込まれて疲弊している時や、対応にお困りの際はお気軽にご相談ください。

院長からのひと言

強迫性障害は、その強迫行為・思考から、日常生活や社会生活に大きな支障を与えることが特徴です。強迫性障害は、病気について学び、症状を理解し、適切な対処法を学ぶことで、より良い生活を送ることができます。家族や友人の理解とサポートも重要です。症状が気になる際は、早めに受診ください。

記事執筆者

相生山ほのぼのメモリークリニック 院長 松永 慎史
相生山ほのぼのメモリークリニック

院長 松永 慎史

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  • 略歴・経歴

    • 2007年藤田医科大学医学部 卒業
    • 2007年藤田医科大学病院 研修医
    • 2009年藤田医科大学医学部 精神神経科
    • 2011年医療法人静心会 桶狭間病院 藤田こころケアセンター 医長
    • 2014年藤田医科大学医学部 精神神経科講師
    • 2018年藤田医科大学医学部 認知症・高齢診療科(内科) 講師
    • 2020年相生山ほのぼのメモリークリニック開院
  • 所属学会

    • 日本認知症学会 専門医・指導医
    • 日本老年精神医学会 専門医・指導医
    • 日本精神神経学会 専門医・指導医
    • 日本精神神経学会 認知症診療医
    • 精神保健指定医
    • 難病指定医
    • レビー小体型認知症研究会 推奨医
    • 認知症サポート医

    書籍

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