レカネマブ(レケンビⓇ)は、アルツハイマー病(AD)の治療を目的とした抗アミロイドベータ(Aβ)抗体薬です。アルツハイマー病の原因の一つとして、脳内にAβという異常なタンパク質が蓄積し神経細胞に損傷を与え、神経伝達を妨げると考えられています。レカネマブは主として、Aβがかたまりになる途中の物質のAβプロトフィブリルに作用します。レカネマブがAβプロトフィブリルにくっつくことで、異物を排除する細胞のミクログリアを引き寄せ、Aβを除去または減少させることで神経細胞の損傷を防ぎ、アルツハイマー病の進行を遅らせます。
レカネマブの有効性は、臨床試験でアルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)~軽度認知症の患者さんに対してレカネマブが投与され、プラセボ群と比較して認知機能の低下を27%遅らせる効果が確認されています(言い換えると、1年6か月の投与で、約6か月程度進行を遅らせる効果とされています)。
レカネマブの主な副作用には、注射部位の副反応(26.4%)や、MRIでみられるアミロイド関連画像異常(ARIA)があります。レカネマブではARIA-H(MRIで確認される脳の微小出血)が17.3%、ARIA-E(MRIで確認される脳の浮腫)が12.6%の患者さんにみられています。ARIAは無症状のことが多いですが、中には重症化することもあり、患者さんは定期的なMRI検査などで慎重なモニタリングが必要です。また、APOE4と呼ばれるアルツハイマー病のリスク遺伝子をもつ人は、ARIAのリスクが大幅に増加することがわかっています。
レカネマブは、日本やアメリカなど複数の国でアルツハイマー病の治療薬として承認されています。一方で、2024年7月26日に、欧州連合(EU)の欧州医薬品庁(EMA)は、レカネマブについて、症状の進行を遅らせる効果が、脳出血といった副作用のリスクに見合っていないと指摘し、医薬品を評価する委員会が販売を承認しないよう勧告したと発表しています。
当院では連携医療機関と協力し、レカネマブ治療の導入をサポートしています。また、当院はレカネマブのフォローアップ施設に認定され、初回投与から6か月以降のレカネマブ治療にも対応しています。連携医療機関で初回投与を実施し、6カ月以降の治療を当院で希望の際は、あらかじめお電話にてご相談ください。
*Lecanemab in Early Alzheimer’s Disease.
van Dyck CH, Swanson CJ, Aisen P, Bateman RJ, Chen C, Gee M, Kanekiyo M, Li D, Reyderman L, Cohen S, Froelich L, Katayama S, Sabbagh M, Vellas B, Watson D, Dhadda S, Irizarry M, Kramer LD, Iwatsubo T.
N Engl J Med. 2023 Jan 5;388(1):9-21. doi: 10.1056/NEJMoa2212948. Epub 2022 Nov 29.