適応障害は、どんな人にでも発症する可能性があります。社会生活の中で、頑張り過ぎてご自身のキャパシティーを超えてしまうことや、対人関係でつらい思いをしてしまうことは誰にでもあるものです。また、周りからは些細に見える出来事でも、ご本人の年齢や経験値、体調、忙しさといった条件によっては必要以上にストレスが強くなってしまうこともあります。
適応障害は、精神的なストレスをきっかけに気分の落ち込みや頭痛、不眠といった心身の不調を生じ、日常生活に支障をきたす状態です。初期の段階で適切な治療をすれば早期の回復が期待できますが、治療をせずに放置していると症状が慢性化し、うつ病などの精神疾患を招くこともあるため注意が必要です。
適応障害は、自分が置かれた状況にうまく適応できず、強い緊張感(ストレス)が続くことで心身にさまざまな不調を生じる状態です。ストレスを感じた時に気持ちが動揺して落ち込むのは誰にでもある正常な反応ですが、心身に現れる症状が強く、仕事や学校、家庭などの日常生活に支障をきたしている場合は治療が必要になります。
適応障害は、発症原因(きっかけ)となるストレスがはっきり特定しており、そのストレスの原因から離れると次第に症状が消失もしくは軽快するのが特徴です。そのため、周囲からは甘えや性格の問題であると誤解されることもありますが、そもそも適応障害の症状は、患者さんが環境に適応しようと努力をした結果、自律神経のバランスが崩れ、コントロールできなくなって生じるものであり、気持ちの甘えや怠け癖、適応能力の低さなどは関係がありません。
アメリカ精神医学会のDSM-IV-TR*1によると、適応障害の有病率は全人口の2~8%程度で、どの年代でも生じることがありますが、女性の発症が多く、男性の2倍に上ると言われています。
通常、適応障害による症状は一時的なものであり、適切な治療や対策をすることで改善するケースが多いですが、原因となるストレスが長引き、状況が改善されないと症状が慢性化することもあります。実際、適応障害と診断された場合でも、後にうつ病やパニック障害などに診断名が変更されるケースも多いことから、適応障害はうつ病やパニック障害などの深刻な精神疾患の前段階とも考えられています。
*1Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders(精神障害の診断と統計の手引き)の略。アメリカ精神医学会の定めた精神障害に関する診断基準で国際的な基準として使用されている。
真面目な方や責任感の強い方は、心や身体が不調であっても休むと周りに迷惑をかけると考えてしまいがちですが、気力だけで無理を重ねていると深刻な状況に陥り、かえって治療期間が延びてしまうこともあります。早い段階であれば、ご自身の状況を客観的に見つめ直し、環境を整えることで症状が改善していく可能性も十分ありますので、心身のつらい症状が続く時は我慢せず早期にご相談ください。
適応障害のセルフチェック
適応障害に多く見られる症状です。以下のような症状が続く場合には早期にご相談ください。
適応障害は、大きな環境の変化や心身にかかる強いストレスによって発症します。
仕事や学校、家庭などの日常生活の出来事から、自然災害のようなものまでそのきっかけはさまざまで、ご本人が状況に適応するため努力してもうまくいかない時に生じやすいのが特徴です。
きっかけとなる要因は必ずしも悪い出来事だけに限らず、結婚や昇進、出産などの嬉しい出来事でも極端に強い緊張を引き起こす場合にはストレスの原因になることがあります。
≪適応障害発症のおもな要因≫
進学、転校、就職、転職、職場の部署移動、昇進、結婚、出産、引っ越し、自然災害など
上司や同僚との不和、仕事上のミス、過重労働や責任過多、セクシャルハラスメント、パワーハラスメント、いじめ、家族の不和、離婚、失恋、嫁姑問題、結婚問題など
深刻な身体の病気(がん、慢性疾患)、経済問題、自然災害など
本来、私達の身体にはストレスに対抗するためのシステム(ストレス反応)が備わっています。
何らか出来事により脳がストレスを感知すると、ストレスに対抗する戦闘態勢を整えるためのアドレナリンが分泌され、交感神経の活動が活発になります(警告反応期)。
その後、さらにコルチゾールなどのホルモンを分泌することで身体の抵抗力を高め、ストレスに対する活動性を上げて心身のバランスを保とうとします(抵抗期)。副腎から分泌されるこれらのホルモンはストレスホルモンと呼ばれており、通常、ストレスが無くなると戦闘モードは解除され、元の健康な状態に戻ります。しかし、身体の防御機能にも限界があり、ストレスが強すぎたり、長引いたりすると次第に適応するためのエネルギーが枯渇してくるため、免疫や代謝、自律神経機能が低下して疲労や倦怠感、不眠、食欲不振、抑うつといったさまざまな症状を生じるようになります(疲弊期)。
一般的に身体がストレスに抵抗できる抵抗期は、7~10日程度と言われていますが、ストレスの強さや持続時間、ストレス耐性は人によって異なるため、発症までの経過には個人差があります。
適応障害の症状は、精神症状、身体的症状、問題行動の3つのタイプに分けられます。
現れる症状は患者さんによって異なりますが、通常、抑うつや不安などの精神症状を生じるよりも前の段階で、身体の警告サインとして身体症状が出ることが多いと言われています。
適応障害の症状はうつ病に似ていますが、うつ病の場合、ストレスが無くなっても病状に変化はなく、症状が改善することはありません。一方、適応障害の場合、ストレスから離れると症状が徐々に軽快し、ストレスの原因が無くなると症状も速やかに(6か月以内)消失します。
不安感、抑うつ、無気力、思考力、集中力の低下、イライラ、悲壮感、焦り、神経過敏、混乱、赤ちゃん返り(子供の場合)など
倦怠感、頭痛、肩こり、腹痛、不眠(もしくは過眠)、食欲不振(もしくは過食)、動悸、過呼吸、めまい、涙が止まらない、喉の異物感(飲み込みにくいなど)、胸の圧迫感、息苦しさ、しびれ、吐き気、咳、難聴、耳鳴り、おねしょ、指しゃぶり(子供の場合)など
無断欠席、無断遅刻または早退、不登校、過剰飲酒、無謀な運転、ギャンブル中毒、けんか、器物損壊、引きこもり、暴飲暴食、薬物の乱用、希死念慮や自殺企図など
適応障害の診断には詳しい問診を行います。
問診時には患者さん(もしくは保護者などの患者さんを良く知る方)から症状の内容や発症時期、ストレス要因となる出来事などをお伺いし、症状との相関関係の有無を確認します。
適応障害の場合、症状の種類だけでなく、症状がどのように経過し、環境により症状が変化するかということが重要な診断材料になります。
≪適応障害の基本的な診断基準≫
適応障害では、以下のような治療法を行います。
適応障害の治療の基本は、心を落ち着かせるための休養をとり、ストレスを減らすことです。
ストレスの原因を根本的に取り除くことが望ましいですが、完全に離れるのが難しい場合には、休職・休学などで一時的に距離をとるなどしてストレスを減らします。
また、職場に問題がある場合などは、仕事量の調整や配置転換を希望するなど、環境調整をすることで症状の改善が見られます。
不眠や不安、抑うつなどの症状がある時は冷静な判断が難しくなるため、患者さんと相談の上、睡眠薬や抗不安薬、抗うつ剤などを処方します。ただし、適応障害の場合、薬物療法は一時的な対症療法に過ぎず、症状の改善には環境調整が必須なため、必要最低限の使用に留めます。
適応障害は、ご本人の性格や思考、ストレスの受け止め方などが発症に大きく影響することがあります。実際に直面しているストレスの対策を考え、ストレスに対する適応力(ストレス耐性)を高めていく精神療法が有効な場合があります。また、現在置かれている状況を整理し、話し合いを通して得た「気付き」により、患者さんの気持ちや行動、態度へ変化をもたらすような認知行動療法が再発の防止に有効な場合があります。
適応障害は、どんな人にでも発症する可能性があります。社会生活の中で、頑張り過ぎてご自身のキャパシティーを超えてしまうことや、対人関係でつらい思いをしてしまうことは誰にでもあるものです。また、周りからは些細に見える出来事でも、ご本人の年齢や経験値、体調、忙しさといった条件によっては必要以上にストレスが強くなってしまうこともあります。
心身に不調を生じると冷静な判断ができなくなり、自分だけでストレスの原因と向き合うことは難しいため、医師や心理士などの専門家のサポートが必要です。当院では、患者さんのつらい症状を緩和するとともに、ストレスにうまく対処するための適応力を高め、その後の生活に活かすことができるようお手伝いをさせていただきますのでお気軽にご相談ください。
適応障害を発症した時、ご家族は心配になり何とかして助けてあげたいと思うものです。
しかし、患者さんにはご自身でできることもたくさんあり、周囲の方の向き合い方が過剰になることで逆に症状が悪化してしまうこともあります。患者さんの気持ちに寄り添い、優しく見守りながらサポートをしていくことを心がけましょう。
現代社会はストレスが多く、適応障害は非常に多い精神疾患です。仕事でのストレス、育児、家事、介護など家庭でのストレスなど、日々の生活環境に適応できなくなった際に発症します。そのまま我慢していると、うつ病に進行することも多く、うつ病に進行すると回復にも時間がかかります。普段からストレスを溜めない生活に気を付けつつ、症状が気になる際は、早めに医療機関を受診しましょう。