不安障害を予防するためには、「気持ちを元気にすること」が大切です。
タイミングは人によって異なりますが、大切な試験、試合、面談、健康診断など日常生活において誰しも不安や恐怖を感じることはあるでしょう。
そういった不安・恐怖が長期間続いて、日常生活に支障を来すのが「不安障害(不安神経症)」と呼ばれる病気です。不安障害には「パニック障害」「社交不安障害」「全般性不安障害」などの疾患が含まれます。
特に高齢になると、加齢に伴って身体の不自由だけでなく、認知機能の低下が生じてきます。
さらに、老後・将来への不安など、不安に繋がりやすい要因が増えていくので、心身ともに不安に対して敏感になる傾向があります。一方で、こうした不安を感じていても「年のせい」と本人およびご家族など周りの方が思い込んで、受診に繋がっていないケースがよくあります。
高齢者の不安障害は慢性的な問題であり、長期的なサポートが望まれます。
気になることがありましたら、お気軽に当院までご相談ください。
「不安障害」は「不安神経症」とも呼ばれ、不安や恐怖を過剰に感じることで日常生活に支障を来している病気の総称です。不安障害の発症からうつ病を併発することが多くみられるため、気になることがありましたら、早めに受診いただき、治療に繋げましょう。
厚生労働省の患者調査(2020年/令和2年)によると、不安障害を含む神経症性障害の患者さんは推定124万人とされており*1、中でも65歳以上の高齢者は約30万人弱であると推測されています。ただし、慢性的な不安・恐怖を「ただの心配性」と捉えられて、診療に繋がっていなケースがあるため、実際の患者数はもっと多いと考えられています。
*1(参考)患者調査 令和2年患者調査 確定数 都道府県編 閲覧(報告書非掲載表)|厚生労働省
不安障害は、以下のような病気に分類されます。
また、不安・緊張症状が6か月以上続いていることが診断の判断材料として重要です。
突然、不安感・恐怖感に襲われることで、息苦しさ・めまい・動悸などの症状が現れる「パニック発作」を起こします。人によっては「死んでしまうかも」と恐怖を覚えることさえあります。症状は10分以内にピークに達し、30分程度で治まります。
一方で、何度かパニック発作を繰り返すと、次第に「また発作が起きるのでは?」と過度に不安になる「予期不安」を感じたり、電車などの密閉空間で発作が起きるかもしれないと心配する「広場恐怖」に発展したりするようになり、次第に外出を控えるなど日常生活に支障を来します。
男性と比べて、女性の発症頻度が高いです。
前触れもなく、突然「パニック発作」が現れますケースと、特定の場所・状況をきっかけに起こすケースがあります。
社交不安障害は、「社交不安症」とも呼ばれます。人にみられる場面で何かをすることを極度に恐れ、不安・緊張症状が現れます。これまで、いわゆる「対人恐怖症」「赤面症」など性格の問題とされてきたものも含まれます。
人の視線を感じる場面で、恥ずかしい思いをするのではないかと不安を感じて、症状が現れます。
(例)人前で話す、電話に出る、注目を浴びる、面接など
不安感が強いと、さらに以下のような症状が現れることがあります。
他人の視線を感じる場面を極力回避する行動を取ることがあります。
なお、行動異常はエスカレートして、次第に人と関わる場面を避けるようになり、引きこもり・気持ちの落ち込みに繋がるケースもよくあります。
漠然とした不安・恐怖を過剰に感じて、心配の感情を自分で制御できず、生活に支障が出るような状況が続いているという病気です。日常生活に不安が散らばっているので、本人や周りの方からは「人より心配性」「神経質」と思われやすく、「病的な不安」と捉えられにくい面があります。しかし、一般的な心配性とは異なり、常に不安に苛まれているため、普通の生活が送れなくなっています。
毎日の生活の全てが不安の範囲となります。
※不安原因が特定されている、2~3日程度の一時的な不安・緊張であれば、全般性不安障害とは診断されません。
症状の現れ方・程度には個人差がありますが、身体症状を強く感じる方が多くみられます。
今のところ、不安障害の原因は、はっきりと分かっていません。
しかし、老年期では不安障害を誘発しやすい要因が多く存在しており、それらが相互に影響し合って発症していると考えられています。そのため、身体疾患の発症を契機に不安障害が発症したり、逆に不安障害が身体疾患の危険因子になったりすることがあります。
不安障害の発症要因となる、ライフイベント例には次のようなものがあります。
不安障害の発症要因となる、慢性的なストレスには次のようなものがあります。
不安・恐怖に関与する、脳内の神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリンなど)の分泌異常が発症に大きく関与していると考えられています。
不安障害は、遺伝性の強い病気ではありませんが、不安を持ちやすい体質を受け継ぐことがあります。ご家族に不安障害の患者さんがいる(家族歴がある)場合には、環境変化・ストレスなどが加わると、発症するリスクが高まります。
※家族歴があったとしても、持っていない人と比べて、なりやすいという体質なだけで、必ず発症するとは限りません。
老年期では、他の年代と比べて病気になりやすい傾向があるため、似たような症状がある身体的疾患や精神疾患との鑑別が必要となります。以下のような検査を行い、総合的に診断します。
どんなときに不安・心配が現れるのか、自覚症状、病気の経過など、詳しくお伺いします。
不安障害の身体的症状・精神的症状が、身体的疾患によって引き起こされていないということを確認する必要があるため、次のような検査を行います。
バセドウ病・甲状腺機能低下症などの甲状腺疾患がないか、内科系疾患の有無を確認します。
脈の揺らぎを調べ、不整脈・狭心症などの病気がないかを確認するために行います。
当院ではCT検査機器を用いて、認知機能に影響を与えるような脳の異常(脳の萎縮や脳梗塞、脳出血の後遺症、脳腫瘍など)があるかを調べます。
※MRI検査や脳血流SPECT検査など精密検査が必要な場合は、連携医療機関へ予約いたします。
不安障害の治療では、「薬物療法」「精神療法」の2つを基本とします。
薬物療法と認知行動療法などの精神療法を併用して行い、やりたいこと・やるべきことが回避されないような生活を目指します。
まずは、お薬で不安を緩和させます。
ただし、眠気、食欲不振、脱力感などの副作用があるため、低用量から始め、服用期間、中断のタイミングには注意が必要です。なお、ご高齢の方では持病を多く抱えていることが多いので、他のお薬との飲み合わせに注意しながら処方していきます。そのため、受診の際には「おくすり手帳」をご持参ください。
症状をコントロールする目的で使用します。
例)選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)など
不安や緊張を和らげるお薬です。即効性があるので、症状が現れたときの対応薬(頓服薬)として使用します。「このお薬があれば、大丈夫」という安心感を持てます。
ただし、数週間以上、毎日服用すると、身体的依存が形成されやすくなるため、できるだけ短期間服用が望ましいとされています。
精神療法はすぐに効果の現れる治療ではありませんが、お薬を使わないので副作用が比較的少なく、再発率も低い治療法です。当院には心理士が在籍しておりますので、医師が必要と判断した場合、心理士による認知行動療法*2を行います。
*2認知行動療法:感情・行動に影響を及ぼしている、極端に偏った(歪んだ)考えを特定して、不安や恐怖にとらわれている思考パターンを変えていく治療法です。
不安障害を予防するためには、「気持ちを元気にすること」が大切です。
以下のようなポイントを意識しましょう。
生活習慣の乱れが続くと、不安定な精神状態になりやすくなります。
栄養バランスの良い食事を摂る、適度な運動、飲酒を控える、十分な睡眠といった基本的なことを意識しましょう。
新しい仕事、趣味、習い事など新しいことに挑戦するといった、何かしらの目標を持って生きようとすると、自然と気持ちが前向きになります。
地域のグループや団体などが行っている社会活動に参加したり、気の合う仲間と会っておしゃべりしたりするだけでも、こころの健康を保つことに役立ちます。
ご家族が不安障害と診断されたら、次のようなポイントに注意しましょう。
不安障害の症状は、「気の持ちようで治る」「心が弱いから症状が出る」「医療機関に通うのは恥ずかしい」と、本人やご家族・周りの方が思われることがあるかもしれません。しかし、不安障害は心の病気です。そのため、身体の病気と同じように、専門医による治療が必要であることをご理解ください。
その上で、周囲の方は「聞き役」に徹して聞いてあげてください。話のつじつまや思い込みが強すぎて、全く理解できない話だとしても、「気にしなければよい」「なぜ、そんなことばかり考えているのか?」などの助言や否定はせずに、素直に聞いてください。「あなたの味方」だということが伝われば、ご本人の気持ちは少しずつ落ち着いていきます。
ご本人が少し落ち着いてきたら、専門の医療機関へ受診しましょう。ご家族も通院に同行して、家でのご様子・心配事を医師にご相談ください。
また、精神科などの受診に対し強い抵抗があれば、まずはかかりつけ医やお近くの保健所にご相談されると良いでしょう。それらの機関から、精神科などの受診を提案してもらう方法もあります。
治療は、患者さん本人の意思・ペースに合わせるようにしましょう。
不安障害を含む精神疾患の場合、ご家族・周りの方が症状を良くしようと熱心に関わり合っても、思うほど良い方向に変化は現れません。むしろ、ご家族が強いストレスを抱えて患者さんに対して批判的になったり怒ったりすると、患者さん本人の自信がなくなり、症状の悪化に繋がるケースがあります。本人のペースを尊重しながら、適度に関わりましょう。
不安障害は、誰でも発症することがある精神疾患の一つです。うつ病や躁うつ病などの気分障害も併発しやすいです。症状が悪化すると、回復に時間がかかることも多く、なるべく早期に医療機関に相談することが大切です。