うつ病
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うつ病

ストレスを抱えやすい現代社会、うつ病は子供から大人まで誰にでも起こりうる病気です。

うつ病は、気持ちの弱さが原因で発症するのではなく、脳の機能障害によって起こるものであり、症状を改善するための適切な治療が必要です。「憂鬱な気分が続く」「よく眠れない」といったストレスのサインが現れた時は十分な休養を取り、早期の治療で症状の悪化を防ぐことが大切です。

うつ病とは

うつ病は、気分障害*1の1つであり、精神的・身体的な強いストレスをきっかけに発症し、憂鬱な気分や意欲の低下のほか、さまざまな心理的・身体的症状を生じることが知られています。

*1長期間にわたり塞ぎ込む、気持ちが過度に高揚するなど、感情的な症状を引き起こす障害。感情障害とも呼ばれる。

精神的につらい思いをしたり、不快な出来事が起きたりすると、誰でも憂鬱な気分に陥るものですが、通常はうまく気分転換したり、問題が解決したりすることで次第に気分が回復し、再び元気になることができます。しかし、うつ病の場合は、時間が経過して状況が改善した場合でも憂鬱な気分が続き、体調が回復しないのが特徴です。一般的に、抑うつや意欲の低下などの症状が2週間以上続き、仕事や学校、家庭などの日常生活に支障をきたす場合にはうつ病と診断します。

厚生労働省の調べによると、日本国内のうつ病の有病率は7%前後*2で、およそ15人に1人がうつ病を罹患していると言われますが、病院を受診していないケースも含めると、実際の患者数はさらに増えると推測されます。特に女性はホルモンバランスの変動との関連が深く、妊娠・出産、更年期などをきっかけに発病するケースも多くなっており、その発症率は男性の2倍に上ります。

*2 厚生労働省 うつ対策推進方策マニュアル 

うつ病を発症すると、気持ちが落ち込み、否定的・消極的な発想に陥りやすくなります。

日を追うごとにつらさが増して自分には生きている価値がないとさえ考えてしまうこともあります。しかし、これらはうつ病の典型的な症状であり、あくまでも病気によって引き起こされているものであるということに早く気付くことが大切です。うつ病の治療には時間がかかるケースもありますが、できるだけ早期に発見して適切な治療を開始することで回復を早めることが可能です。

うつ病の症状は患者さんによって異なります。当院では患者さんのお話をじっくり伺い、つらい症状を改善する方法を一緒に考えていきますので、心身の不調が続く時はお気軽にご相談ください。

うつ病のセルフチェック

以下のような症状が続く場合、うつ病を発症する可能性があります。早期にご相談ください。

  • 悲しく憂鬱な気分が続いている
  • 何をしても楽しくない、興味が持てない
  • 食欲がない、もしくは食べ過ぎてしまう
  • よく眠れない、もしくは寝すぎてしまう
  • イライラして怒りっぽくなる
  • 疲れが取れない、やる気が出ない
  • 集中力がなく、物事の決断ができない
  • 自分に価値がないと感じる、いなくなりたいと思うことがある

うつ病の原因

うつ病を引き起こす最大の原因は、精神的もしくは身体的な強いストレスです。

そもそもストレスとは、外部から何らかの刺激を受けた時に生じる緊張状態のことであり、仕事や勉強、人間関係といった社会的要因から、天候や騒音などの環境的な要因、身体の病気などの身体的要因まで、ストレスにはさまざまな種類があります。必ずしも悪い出来事だけではなく、進学や就職、昇進、結婚・出産といった一般的には嬉しいイベントであっても、環境が大きく変わることでストレスを生じることがあります。こうした緊張状態が長く続くと、脳の働きが低下してセロトニン*3やノルアドレナリン*4といった神経伝達物質(脳内の情報伝達に必要な物質)の伝達がスムーズにいかなくなります。その結果、脳のエネルギーが欠乏すると次第に気持ちが落ち込むようになり、心と身体にさまざまな症状を生じると考えられています。

*3中枢神経系で情報を伝える神経伝達物質。睡眠、体温調節、神経内分泌、記憶、認知などを司る。
*4脳内の情報を伝えるホルモン。ストレスの刺激を伝達して交感神経系に指令を出して興奮作用を引き起こす。

うつ病の分類

うつ病には、大きく分けて心因性、内因性、身体因性の3つのタイプがあります。

これらは、それぞれ単独で生じる場合もあれば、複数のタイプが複雑に絡み合って発症に至ることもあります。うつ病の改善には、発症の原因を正しく理解し、患者さんの状態に合わせた治療法を検討して症状の改善を目指します。

  • 心因性うつ病

職場や学校でのトラブル、離婚などの家族問題、親しい人との死別、失恋など、精神的な葛藤や心理的な強いストレスが引き金で発症します。また、受験や仕事での失敗など、自己否定感や劣等感が強く、自分に厳しくなりすぎてしまうことも発症の原因になります。

  • 内因性うつ病

患者さんの生まれ持った性格や気質、体質や遺伝などが関係して発症するものです。

生真面目、完璧主義など、責任感が強く自分に厳しい方は、大変な事があっても弱音を吐かない「頑張り屋さん」が多いものです。限界ギリギリまで頑張って気持ちに余裕がなくなってしまうと、ちょっとした失敗や人間関係の悪化などをきっかけにうつ病を発症することがあります。

また、家族にうつ病の方がいる場合、うつ病を発症しやすい傾向を引き継いでいる可能性があります。

  • 身体因性うつ病

アルツハイマー型認知症や脳梗塞といった脳の機能に異常をきたす病気、甲状腺機能低下症、糖尿病など、身体的な病気が原因でうつ症状を生じるのが特徴です。

頭部の外傷、副腎皮質ステロイドやインターフェロンなどの薬剤の副作用、アルコールなどが原因で発症することもあるため、外因性うつ病とも呼ばれます。

うつ病の症状

うつ病の症状は非常に幅広く、精神症状と身体症状の大きく2種類に分けられます。

発症初期は精神症状ではなく、一見うつ病とは関係ない身体症状や行動の問題などが目立つことも多いですが、検査を受けても異常は見つかりません。また、朝に症状が強くなり、夕方になると軽快するケースも多いため、周囲からは単なる「サボり」のように見えてしまい、病気であることを理解してもらえない場合もあります。

おもな精神症状

気分が落ち込む、無関心になる、意欲が無くなる(食欲、性欲など)、不安や焦りを感じる、イライラする、ぼんやりしている、悲観的になる、集中できなくなりミスが増える、口数が少なくなる、外見を気にしなくなる、飲酒量が増える、涙もろくなる、落ち着きがない、自分を責める、など

おもな身体症状

頭痛、耳鳴り、動悸、めまい、だるい、睡眠障害(不眠、過眠)、食欲不振、過食、味覚障害、腰痛、肩こり、胃の痛みや不快感、腹痛、下痢、便秘、生理不順、性欲減退、勃起不全、口の乾き、しびれ、など

うつ病の検査・診断

うつ病の診断には以下のような診察や検査を行います。

問診

患者さんがお困りの症状について、発症時期やきっかけの有無などを確認します。また、職業や生活環境、生い立ち、家族構成などについても詳しく伺います。患者さんご自身で状況を説明するのが難しい場合には、患者さんをよく知るご家族や関係者の方に日頃の様子などをお伺いすることもあります。

うつ病は、目で見て判断できる病気ではないため、このような問診での聞き取りが非常に重要になります。当院では、初診時の診察は長めに時間をお取りしてじっくりとお話を伺います。

心理検査

心の状態を客観的に見るための検査です。患者さんご自身にご記入いただくものや面接形式で行うものなどいくつかの種類があります。診断の補助に使うだけでなく、治療方針の検討にも役立ちます。認知症の可能性がある場合には認知機能を調べる検査を行うこともあります。

血液検査

何らかの身体的な症状がある時や、身体的な病気の影響でうつ症状が出ていると考えられる場合には、採血を行ってお身体全体の状態を調べます。

画像検査(CT検査、MRI検査など)

うつ症状の背景に認知症や脳血管障害、心疾患などの病気の疑いがあると判断された場合には、詳しい状態を調べるため画像検査を行います。

うつ病の治療

うつ病治療の基本は休養です。うつ病は、限界を超えて頑張り過ぎてしまい、身体のエネルギーを使い切ってしまった状態であるため、しっかり休んでエネルギーを回復することが必要不可欠であり、薬物療法や精神療法などを併行して行うことでつらい症状の改善を目指します。

十分な休養、環境調整

職場や学校などの環境がストレスの原因である場合は、一時的に休職・休学したり、時間を減らしたりして十分な休養をとります。ご自宅などの安心できる環境が望ましいですが、家庭内での休養が難しい場合、一時的に入院して原因から距離を置くことが有効な場合もあります。

また、仕事上の問題がある時は、仕事量の調整や配置転換をお願いするなど、環境を調整することで症状が改善することもあります。うつ病の患者さんは真面目で責任感の強い方が多く、仕事に穴を開けると周りに迷惑をかけてしまうと思いがちですが、十分な休養はうつ病回復への近道であり、再発予防のためにも重要です。

薬物治療

うつ病は脳の病気であるため、他の病気と同じ様にお薬での治療をする必要があります。

お薬の作用で人格の変化などを心配される方もいらっしゃいますが、うつ病の治療の基本となる抗うつ薬は、患者さんが本来持っている脳の機能を改善することが目的であり、減少したセロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質を増やすことで、うつ病の症状改善を目指すものです。現在使用されているお薬は安全性が高く、医師の指示に従って使用すれば安心してお使いいただくことが可能です。

1. 抗うつ薬

  • 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)

【一般名(商品名)】エスシタロプラム(レクサプロ)、セルトラリン(ジェイゾロフト)、パロキセチン(パキシル)など

神経伝達物質の1つであるセロトニンの再取り込みを阻害して神経細胞間のセロトニン量を増やし、情報伝達をスムーズにするお薬です。

  • セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)

【一般名(商品名)】デュロキセチン(サインバルタ)、ベンラファキシン(イフェクサー)など

セロトニンやノルアドレナリンの再取り込みを阻害して神経細胞間のセロトニンとノルアドレナリンの量を増やし、情報伝達をスムーズにします。ノルアドレナリンには痛みを軽減する作用があり、慢性的な痛みの緩和にも有効です。

  • ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)

【一般名(商品名)】ミルタザピン(レメロン、リフレックス)など

セロトニンとノルアドレナリンの分泌を促し、セロトニンが効率よく働くように作用するお薬です。

  • 三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬

【一般名(商品名)】イミプラミン(トフラニール)、クロミプラミン(アナフラニール)(三環系)、ミアンセリン(テトラミド)、マプロチリン(ルジオミール)(四環系)など

古くからうつ病の治療に使われているお薬で、セロトニンやノルアドレナリンの再取り込みを阻害する作用があります。高い効果がある反面、副作用も出やすいため、SSRI やSNRIで効果が得られない場合や重症の場合に使用します。三環系に比べ、四環系は副作用が少ないのが特徴です。

2. 非定型抗精神病薬

【一般名(商品名)】アリピプラゾール(エビリファイ)、ブレクスピラゾール(レキサルティ)など

統合失調症の治療薬ですが、抗うつ薬だけでは十分な効果が得られない場合、SSRIやSNRIなどの抗うつ薬と非定型抗精神病薬を併用することで抗うつ薬の効果を高めます(増強療法)。

3. 睡眠薬

【一般名(商品名)】スボレキサント(ベルソムラ)、レンボレキサント(デエビゴ)、ラメルテオン(ロゼレム)、エスゾピクロン(ルネスタ)など

睡眠障害のお薬で、寝付けない、夜中に度々目が覚めるなど、不眠症状がある場合に使用します。

精神療法

  • 認知行動療法(CBT)

認知行動療法の「認知」とは、ものの受け取り方や考え方のことであり、元々の性格やストレスなどで凝り固まった考えを柔らかく解きほぐし、自由に考えたり行動したりすることができるようにする治療法です。うつや不安などの症状の背景にあり問題となっている思考パターン(自動思考)に気付き、考え方を変えていくことで心のストレスを減らし、気持ちを楽にする効果が期待できます。

よくある質問

1. 抗うつ薬を飲んだら余計具合が悪くなりました。薬を中断してもいいですか?

抗うつ薬などのうつ病の治療薬は、飲み初めに副作用が出ることがあります。

特に服用開始後の最初の1~2週間に強く出るのが特徴で、徐々に落ち着いてくることがほとんどですが、抗うつ薬の効果が出るまでの期間、副作用だけが強く感じられることもあります。

薬を飲んでかえって具合が悪くなるのはとてもつらいものですが、急にお薬を中止すると離脱反応*5が出現することもあるため、自己判断でお薬を中断せずに医師にご相談ください。

*5めまい、頭痛、吐き気、倦怠感、イライラ、不眠、不安など、薬が身体から急になくなることで起こる症状のこと。

≪抗うつ薬のおもな副作用≫

  • SSRI:吐き気や食欲不振、下痢
  • SNRI:吐き気や尿が出にくい、頭痛
  • NaSSA:眠気や体重増加
  • 三環系:口の乾き、便秘、立ちくらみ
  • 四環系:眠気、ふらつき
2. うつ病を予防する方法はありますか?

完全にうつ病を予防することは難しいですが、普段から以下のようなことに気を付けてうつ病を寄せ付けない生活を目指しましょう。

  • 規則正しい生活を送る

生活リズムが乱れると心や身体の調子も崩れやすくなります。食事や運動、睡眠といった日常生活を見直し、規則正しい生活を送ることで心身共に良いコンディションを保ちましょう。

  • 完璧を目指さない

頑張ることは良い事ですが、行き過ぎた完璧主義は健康度を低下させ、うつ病のリスクを高めます。頑張り過ぎて苦しい状況に陥っていないか、ご自身の行動や考え方を客観的に見直してみましょう。

  • 楽しい時間を意識的に作る

日頃から好きなスポーツや趣味、家族や友人とのおしゃべりなどで楽しい時間を意識的に作り、ストレスが大きくなる前にこまめに解消することを心がけましょう。

  • 日光を浴びる

日光を浴びるとセロトニンの分泌量が増加します。また、体内時計の調節にも影響が大きく、睡眠の質の向上にも役立ちます。外出をして日光を浴びることは良い運動になる上、気分も良くなりますが、外出できない場合でも窓越しに日光を取り入れるなど、光を採り入れる工夫をしましょう。

  • 食事に気を付ける

うつ病発症の要因であるセロトニンは、トリプトファンという成分から生成されます。トリプトファンは牛乳から発見された必須アミノ酸であり、肉類のほか、大豆製品、乳製品などたんぱく質の多い食品に多く含まれています。また、野菜やキノコ、豆類、穀類、果物、魚介類、緑茶などを中心とした健康的な和食がうつ病のリスクを下げるとの報告もありますので、これらの食品を意識しつつ、バランスの良い食事を摂ることを心がけましょう。

院長からのひと言

うつ病は、有病率7%と高く、誰でも経験する可能性のある病気です。うつ病治療は、重症になればなるほど回復までに長期の期間を要するため、症状が軽いうちから治療することが大切です。気分が落ち込む、やる気が出ない、朝起きられない、身体がだるい、眠れないなど、気になる症状があれば、早めに医療機関を受診しましょう。

記事執筆者

相生山ほのぼのメモリークリニック 院長 松永 慎史
相生山ほのぼのメモリークリニック

院長 松永 慎史

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  • 略歴・経歴

    • 2007年藤田医科大学医学部 卒業
    • 2007年藤田医科大学病院 研修医
    • 2009年藤田医科大学医学部 精神神経科
    • 2011年医療法人静心会 桶狭間病院 藤田こころケアセンター 医長
    • 2014年藤田医科大学医学部 精神神経科講師
    • 2018年藤田医科大学医学部 認知症・高齢診療科(内科) 講師
    • 2020年相生山ほのぼのメモリークリニック開院
  • 所属学会

    • 日本認知症学会 専門医・指導医
    • 日本老年精神医学会 専門医・指導医
    • 日本精神神経学会 専門医・指導医
    • 日本精神神経学会 認知症診療医
    • 精神保健指定医
    • 難病指定医
    • レビー小体型認知症研究会 推奨医
    • 認知症サポート医

    書籍

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