一度、医療機関の受診をおすすめします。
目次
脂質異常症は生活習慣病のひとつで、血液中の脂質(コレステロール・中性脂肪など)の値が基準値から外れた状態になる病気のことです。
以前は「高脂血症」「高コレステロール血症」と呼ばれていましたが、コレステロール値が高いだけでなく、HDL(善玉コレステロール)値が低い場合も問題となるため、2007年より名称変更されました。
厚生労働省の患者調査(2020年)*1によると、脂質異常症の総患者数は約401万人と推定されます。男女の内訳をみると、男性約124万人、女性約276万人であり、男性と比べて女性は約2倍と報告されています。
*1(参考)患者調査 令和2年患者調査 確定数 全国編 閲覧(報告書非掲載表)
脂質異常症を発症しても自覚症状がないことから放置されやすいのですが、高血圧や糖尿病と同じで放置すると「動脈硬化」を促進させます。動脈硬化の進行によって、心筋梗塞、狭心症などの心疾患、脳出血・脳梗塞などの脳血管疾患といった危険な合併症の発症リスクが高まるため、「早期発見・早期治療」が重要となります。
脂質異常症は適切な治療を行うことで、改善できる病気です。
健康診断・人間ドックで中性脂肪やコレステロール値の異常が見つかった方、ご家族が脂質異常症で心配のある方など、お気軽に当院までご相談ください。
脂質異常症の約8割は生活習慣によって引き起こされています。
以下の項目に当てはまるものが多い程、脂質異常症の発症リスクが高まります。
脂質は私たちにとって欠かすことのできない栄養素のひとつで、中性脂肪やコレステロールが含まれます。
脂肪組織に蓄えられてエネルギー源の役割や、皮下脂肪として体温の保持、衝撃から身体を守るクッションといった働きをしています。
細胞膜の構成成分であり、ホルモン・胆汁酸などの原料としての役割もあります。
また、コレステロールには2種類あります。
肝臓で作られたコレステロールを全身に運ぶ働きをしていますが、増えすぎると動脈硬化を引き起こすので「悪玉コレステロール」とも呼ばれます。
余分なコレステロールを全身から回収して、肝臓へ戻す働きをしているので、「善玉コレステロール」とも呼ばれます。
通常、血液中の脂質は一定量に保たれるよう調節されています。
しかし、体内で脂質がうまく処理されなかったり、脂質の摂取量が多すぎたりすると、血液中の脂質が基準値から外れてしまいます。
脂質異常症には、以下のタイプに分けられます。
LDLコレステロールが140mg/dL以上
※120~139mg/dLでは「境界域高LDLコレステロール血症」
HDLコレステロールが40 mg/dL未満
トリグリセライドが150 mg/dL以上(空腹時採血)もしくは175mg/dL(随時採血)
※2022年に随時採血175mg/dLという非空腹時の新基準が追加されました。
Non-HDLコレステロールとは、「総コレステロール-HDLコレステロール(善玉コレステロール)」のことで、総コレステロールから善玉コレステロールを除いた値です。
Non-HDLコレステロールが170mg/dL以上
※150~169mg/dLの場合、境界域高non-HDLコレステロール血症
※血液中にはLDLコレステロール(悪玉コレステロール)以外にも、動脈硬化リスクとなる悪玉があるため、それらを総合的に知ることのできる指標とされ、近年特定健診に追加されています。
脂質異常症を発症しても、多くの場合「無症状」です。
しかし、自覚症状がないからと言って、放置して良い病気ではありません。
脂質異常が続くと、少しずつ血管の動脈硬化が進み、「動脈硬化症」を引き起こします。
その結果、狭心症・心筋梗塞などの虚血性心疾患や、脳梗塞・脳出血などの脳血管疾患といった合併症の発症リスクが高まります。
脂質異常症は、原因によって「原発性脂質異常症」と「続発性脂質異常症」の2種類に分類されます。
「遺伝子異常」が原因となって発症する脂質異常症です。
代表的な病型として「家族性高コレステロール血症」があります。
この疾患は若くから発症しやすく、300~500人に1人の割合でみられます。
ほかに「家族性Ⅲ型高脂血症」など、環境要因や生活習慣などが発症に影響して、成人以降に発症する病型もあります。
肥満、生活習慣、脂質異常を引き起こす疾患、薬剤などが原因となって発症する脂質異常症です。
脂質異常症の約8割は、「生活習慣の乱れ」によって引き起こされており、主な発症要因として以下のようなものがあります。
また、脂質異常を引き起こす疾患や薬剤には、次のようなものがあります。
脂質異常症は、健康診断や人間ドック、他の病気の検査として血液検査を行った際に発見されることが多い病気です。血液検査の結果をお持ちの場合には、ぜひご持参の上、ご受診ください。
診療ガイドラインに則って、血液検査と問診を柱として、脂質異常症(高コレステロール血症)の診断を行います。
なお、脂質異常症のほか、合併症の発症が疑われる場合には他の検査を行うことがあります。
自覚症状、既往症(過去にかかったことのある病気)、体重変化、喫煙・飲酒・運動といった生活習慣、「ご家族に脂質異常症・脳梗塞・狭心症の方はいるか」など詳しくお伺いします。
血液中の「HDL-コレステロール」「LDL-コレステロール」「中性脂肪」「non-HDLコレステロール」の値を調べます。
※血液検査の数値とは、受ける前の数日間の生活や健康状態によって変化します。
健診・人間ドックで脂質異常を指摘された方でも、脂質異常が突発的なものか、日常的なものかどうかを確認するために、再度、採血による血液検査を行います。
脂質異常症(高コレステロール血症)治療は、生活習慣(食事・運動療法)の改善を中心として、必要に応じて薬物療法を行い、数値の正常化を目指します。
なお、脂質異常を引き起こす原因となる疾患がある場合には疾患の治療を優先して行い、原因となる薬剤があれば変更・中止など対処するようにします。
当院では、診療ガイドラインに沿って、患者さんの将来的な動脈硬化性疾患リスクに合わせた脂質管理目標値を定めています。不安や疑問点などありましたら、お気軽にご相談ください。
(表)リスク区分別脂質管理目標値
脂質異常症(高コレステロール血症)治療の基本となるのが、食事や運動による生活習慣の改善です。特に肥満の方では減量することで脂質の数値が改善するだけでなく、高血圧・糖尿病・脂肪肝などほかの疾患についても同じように改善が期待できます。長く続けていくことが大切なので、普段の生活から、「適正体重の維持」を心がけるようにしましょう。
脂質異常症(高コレステロール血症)治療の土台となります。食事療法をおろそかにしてしまうと、薬物療法を併用していても効果が落ちてしまったり逆に体重増加や合併症に繋がってしまったりと、悪影響を及ぼします。
<食事療法のポイント>
脂質異常症(高コレステロール血症)の食事療法では、カロリーの過剰摂取にならないよう注意しましょう。
高脂質の食事が続くと、血中のコレステロール値が上昇します。コレステロールは卵類・内臓類に多く含まれるため、食べる量と頻度を減らしましょう。
コレステロール含有量の例:親子丼380mg、オムレツ320mg、レバニラ炒め150mg、ショートケーキ90mgなど
脂肪分の多い肉類・乳製品を控える一方で、オリーブオイルや魚油(魚介類)には悪玉コレステロール(LDL)を下げる働きがあるため、摂取しましょう。
また、マーガリン・ショートニングなどに含まれるトランス脂肪酸は、過剰摂取すると動脈硬化を促進させる恐れがあるので、揚げ物類やスナック菓子、クッキー類など市販の洋菓子は避けましょう。
ニンジン、ゴボウ、大根などの根菜類、イモ類、キノコ類、海藻類、こんにゃく、納豆には食物繊維が豊富に含まれています。
また、主食には玄米や胚芽米、麦飯、全粒粉のパン、蕎麦がおすすめです。
砂糖・果物・ジュースといった糖類の摂り過ぎは、中性脂肪の上昇に繋がります。
1日あたり日本酒1合、ビールであれば500ml、ワインなら180ml程度と、お酒はほどほどに楽しみましょう。
ウォーキング、早歩き、水泳などの有酸素運動は、血中の過剰な脂質を減らして、善玉コレステロール(HDL)を増やします。普段運動していない方は、「できるだけ歩く」「階段を使う」「自転車で買い物に行く」「ラジオ体操」「バランス運動」など、日常生活の中で身体活動量を増やすことから始めると良いでしょう。運動量の目安は、1日合計30分以上、週3回以上です。
※持病がある方は医師に運動の可否、適切な運動量などを確認し、運動前後には、準備・整理運動を行っていましょう。
生活習慣の見直しだけでは、脂質の管理目標値に達しないときや、狭心症・心筋梗塞などの冠動脈疾患があり、動脈硬化による合併症発症リスクが高いときは、薬物療法を併用します。
患者さんの脂質異常症の病態に合わせて、組み合わせて使用します。
脂質異常症(高コレステロール血症)治療薬は、以下の3つに分けられます。
第一選択薬(最初に選択する薬)です。
コレステロールの体外排出を促進させます。
コレステロールの体外排出を促進させます。
小腸でのコレステロール吸収を阻害します。
肝臓でのコレステロール・中性脂肪の合成を抑制します。
中性脂肪の合成を阻害します。HDL(善玉)コレステロールを増やして、LDL(悪玉)コレステロールを減らす働きもあります。
※スタチン系製剤や抗血栓薬(ワーファリン)、糖尿病薬との併用には注意が必要なので、これらの薬を服用している場合には必ず医師に申告してください。
青魚に含まれる脂肪酸のひとつEPAから作られ、脂質の合成を抑制・血液を固まりにくくする作用があります。
※血液凝固薬(ワーファリン)などを服用中の方は併用すると出血しやすくなるので、注意が必要です。
自己判断によって薬を中止したり、減量したりすることは危険です。
お薬の効き方や副作用など、少しでも気になる点があるときには、必ず医師またはスタッフまでご相談ください。
一度、医療機関の受診をおすすめします。
これまで見てきた通り、「脂質異常症」自体には症状はありません。一方で、何か症状が出てきたときには、病状が進行している可能性があります。また、自覚症状が出てきた段階からの治療では、できる治療が限られてしまうこともあります。
そうならないために、早い段階から治療および動脈硬化性疾患などの合併症の発症予防に取り組んでいただきたいです。お気軽にご来院ください。
多くの脂質異常症では、生活習慣が原因となっているため、以下のポイントに注意しましょう。
肥満傾向がある場合には、適正体重を目標に減量しましょう。急激に減らすのではなく、1か月間で現在の体重の5%程度の減量から少しずつ始めるのが成功の秘訣です。
※適正体重=身長(m)×身長(m)×22
三食きちんと食べ、早食い・まとめ食いはできるだけ避けましょう。カロリーオーバーや脂肪の摂り過ぎに気をつけて、食物繊維はしっかり摂ることをおすすめします。また、食事は就寝前2時間前には済ませておくと良いです。
ウォーキング、軽いジョギング、水泳などの有酸素運動を30分以上続けることが目標です。しかし、自転車で買い物をする、できるだけ階段を使うといったような普段の生活の中でできることから、無理のない範囲で行うと良いでしょう。
脂質異常症は動脈硬を引き起こします。また、心筋梗塞、狭心症などの心疾患、脳出血・脳梗塞といった脳血管疾患の発症リスクを高め、さらに認知症のリスク因子でもあります。日頃の食生活や運動習慣に注意しつつ、健康診断などで脂質異常症を指摘された際は、早めに医療機関を受診しましょう。