パニック発作に似た症状は、心筋梗塞や狭心症といった心疾患のほか、喘息やメニエール病、甲状腺機能亢進症、バセドウ病など他の疾患でも生じることがあります。最初に発作が起きた時は、まず検査を受けてお身体の状態を確認し、それらの病気が原因でないことを確かめることが大切です。
パニック障害は、突然、不安感に襲われ、動悸やめまい、呼吸困難、過呼吸発作などを伴うパニック発作が生じる病気です。進行すると、一人で外出できなくなるなど、仕事や学校などの社会生活に深刻な影響を及ぼします。パニック障害は治療で改善できる病気であり、早い段階で適切な治療を行うと比較的短期間で軽快していくケースが多いため、発作の症状にお困りの方は早期にご相談ください。
パニック障害は、不安障害*1の1つであり、突然なんの前触れもなく激しい不安に襲われ、動悸やめまい、呼吸困難、過呼吸、胸の痛みなどの発作が現れるのが特徴です。
身体的には問題がなく、検査を受けても異常は見つかりませんが、発作時は身体のコントロールが効かなくなってパニックに陥り、「このまま死んでしまうのではないか」という強い恐怖を感じるほか、「また発作が起きるのではないか」という漠然とした不安(予期不安)が頭から離れなくなり、日常生活に支障をきたすようになります。
*1 日常生活に支障が出るほど強い不安や恐怖を生じる病気の総称。パニック障害以外に全般性不安障害や社会不安障害、強迫性障害などがある。
パニック発作自体は決して珍しい症状ではなく、成人の方の約11%が生涯で1度は発作を経験すると言われています。発作を経験した方が全員パニック障害になる訳ではなく、治療せずに回復するケースもありますが、発作が繰り返し起こるようになると次第に予期不安が強まり、パニック障害に進行します。
パニック障害の発症率は100人に1~2人程度で、その多くが10代後半~20代前半頃に発症しています。20~30代の若い世代の発症が多いですが、特に近年は女性の発症が目立っており、その発症率は男性の2倍に上ります。
パニック障害へ進行すると、発作への不安から一人で外出できなくなるなど、患者さんの生活の質を大きく低下させます。また、ご自身で発作をコントロールできない無力感や、職場や学校、家族など周囲からの理解が得られないストレスで心が落ち込み、うつ病を発症するケースもあります。
パニック障害は、早期に治療を行うことで症状が改善するケースも多いため、症状が進行して日常の行動や社会生活が大きく制限される前に適切な治療を開始することが重要です。
以下のチェックに当てはまる場合はパニック障害による発作の可能性があります。
早期にご相談ください。
パニック障害の原因はまだ完全に解明されていませんが、現時点では脳の深い部分にある脳幹部*2に何らかの異常が起こり、「脳のアラーム(警告)」が誤作動を起こして発作が起きると考えられています。その興奮で偏桃体の働きが過剰になると予期不安を生じるようになり、本来は偏桃体の働きを制御する役割の前頭葉が「体内で命にかかわる危険な事が起きているから回避しなさい」という誤った指令を出すことで回避行動をとるようになると推測されます。
発症にはノルアドレナリン、セロトニン、GABA(γ-アミノ酪酸)、グルタミン酸などの脳内の神経伝達物質が深く関与していると言われているほか、遺伝や体質、さらにご本人の性格(几帳面、生真面目)などの影響を受けることもあり、過労や精神的なストレス、睡眠不足などをきっかけに発症すると考えられています。その他、炭酸ガスや乳酸、カフェインなどもパニック発作を誘発することが確認されています。
*2間脳、中脳、橋及び延髄から構成され、大脳を支える幹のような形をしている。生命維持に関与する意識・呼吸・循環などの調節を行う重要な役割がある。
(図)脳の構造
パニック障害には「パニック発作」「予期不安」「広場恐怖」という3つの症状があります。
パニック発作は、パニック障害の中心的な症状です。
なんの予兆もなく突然心臓がドキドキして呼吸が激しくなり、発汗、呼吸困難、めまい、ふらつき、吐き気、胸の痛み、震え、痺れ、脱力感といった多様な症状が現れ強い不安や恐怖を伴います。パニック発作は、電車の移動時や会議中のような緊張時に起こることもあれば、緊張感から解放されてほっとした瞬間に生じることもあります。通常、発作は10分以内にピークに達し、20~30分程度で治まりますが、発作が起きている時は身体が制御不能になり、現実喪失感(物事の現実味がなくなる)や自分が自分でないような感覚(離人症)を覚え、このまま死んでしまうのではないかという強い恐怖を感じることもあります。
パニック発作が起きる頻度は個人差があり、毎週もしくは毎日発作が起きる場合もあれば、数週間から数か月の間隔で起こるケースもあります。
パニック発作は心臓発作のような激しい症状が現れるため、発作が起きた時の苦しさや怖さから、次第に「また発作が起きるのではないか」という心配が強くなります。このような予期不安が常に続くうちに外出が怖くなって職場や学校に行けなくなる場合もあります。
なお、このような予期不安は、パニック発作が改善した後にも残る場合があります。
広場恐怖とは、すぐに逃げられない場所にいることに耐えがたい恐怖を感じる状態のことです。
パニック障害の患者さんはパニック発作を繰り返すうちに、過去に発作が起きた場所や、発作が起きた時に助けを得られない場所(エレベーター、窓がない部屋、トンネル、飛行機、電車といった閉鎖的な空間など)に行くことが怖くなり、それらの場所を避けようとする行動をとるようになります。次第に一人での外出が難しくなり、社会生活に大きな支障をきたします。
パニック障害は、身体的な検査では異常がないため、詳しい問診で診断を行います。
以下の13個の項目中、同時に4項目以上の症状が現れ、発症後10分程度で症状がピークに達し、30分程度で収束するものを「パニック発作」と定義し、このようなパニック発作が1か月もしくは1か月以上、一定以上の頻度で出現する場合を「パニック障害」と診断します。
なお、発症初期は症状が少なく、1~2種類程度の場合もあり、症状が3つ以下の場合を「症状限定性発作」と呼んでいます。通常は発作の回数を重ねるうちに徐々に症状が増加していく傾向があります。
≪パニック発作の診断基準≫
※ただし、何らかの物質や他の精神疾患などによって起こる症状は除く。
パニック障害の治療は、薬物療法と精神療法の2つの治療があります。
パニック障害は治療を行わないと徐々に悪化していくため、まずはパニック発作が起こらないように薬でコントロールする必要があります。発作が起きてから2~3か月以内で、予期不安や広場恐怖の症状が少ない早期に開始することが重要です。
パニック発作を抑えるために使用します。SSRIやSNRIは、抗うつ薬の中でも副作用や依存性の少ないと言われています。ただし、これらのお薬も急に服用を止めると離脱症状を引き起こすことがあるため、医師の指示に従って正しく服用する必要があります。
【一般名(商品名)】セルトラリン(ジェイゾロフト)、パロキセチン(パキシル)、エスシタロプラム(レクサプロ)など
神経伝達物質の1つであるセロトニンの再取り込みを阻害して神経細胞間のセロトニン量を増やし、情報伝達をスムーズにするお薬です。
【一般名(商品名)】ベンラファキシン(イフェクサー)、デュロキセチン(サインバルタ)など
セロトニンやノルアドレナリンの再取り込みを阻害して神経細胞間のセロトニンとノルアドレナリンの量を増やし、情報伝達をスムーズにします。ノルアドレナリンには痛みを軽減する作用があり、慢性的な痛みの緩和にも有効です。
パニック発作の予期不安や恐怖を和らげるために使用します。ベンゾジアゼピン系の抗不安薬は即効性がありますが、眠気やふらつき、動作が鈍くなるといった副作用が起こりやすく、依存性の問題もあるため、服薬量や服薬期間が長くならないように調整し、必要最低限の使用に抑えます。
【一般名(商品名)】クロチアゼパム(リーゼ)、アルプラゾラム(ソラナックス、コンスタン)、エチゾラム(デパス)、ロラゼパム(ワイパックス)、ロフラゼプ酸エチル(メイラックス)など
感情の動き(情動)に深く関係する脳の海馬や偏桃体、大脳辺縁系や視床下部に作用し、緊張や不安を軽減します。
パニック障害になると、生理的な変化さえも緊急事態が起きていると認知してしまうため、誤った認知(考え)を正しく訂正していく心理療法が有効です。薬物療法と組み合わせて行います。
暴露療法は、不安障害の治療によく使われる方法で、患者さんが恐れている不安な状況に向き合い、慣れていくことで不安や恐怖を克服する治療です。実際にパニック発作が起こった場所や状況を再現し、繰り返し不安な場面に挑戦していくうちに、不安や緊張感、恐怖感が薄らぎ、最終的に脅威と感じなくなる状況を馴化(じゅんか)と言います。
暴露療法は、医師や心理士の指導の元で行いますが、いきなり強い不安に向き合うのではなく、患者さんが耐えられるレベルの不安から段階的に進めていくことが大切であり、成功体験を積み重ねていくうちに、少しずつ自分に自信が持てるようになります。
パニック発作に似た症状は、心筋梗塞や狭心症といった心疾患のほか、喘息やメニエール病、甲状腺機能亢進症、バセドウ病など他の疾患でも生じることがあります。最初に発作が起きた時は、まず検査を受けてお身体の状態を確認し、それらの病気が原因でないことを確かめることが大切です。
気持ちを落ち着けて深呼吸を行うようにしましょう。発作が起きると呼吸が乱れ、過剰に息を吸いこんでしまうことが多いため、鼻呼吸でできるだけ長く息を吐くことを心がけましょう。
服用期間については個人差がありますが、一般的に年単位での服用が必要になります。
服薬開始後、効果が出るまでには数週間~数か月かかりますし、効き目が現れて症状が改善した場合でも、その状態を維持し続けるために半年~1年程度服用を続けます。その後、離脱症状などを抑えるために徐々にお薬を減らしていき、終了となります。
薬物療法は、根気よく続ける必要がありますが、自己判断でお薬を止めたりせず、医師の指示に従って正しくご使用いただくことが大切です。
日頃からバランスの良い食事、適度な運動、十分な睡眠など、規則正しい生活を心がけましょう。ストレスを感じた時は、深呼吸をする、ゆっくり入浴をする、家族と過ごすなど、意識してリラックスする時間を作ることが大切です。スポーツや趣味の活動などご自身に合ったストレス発散方法を見つけることもおすすめです。
ただし、たばこやお酒などはできるだけ控えることが大切です。たばこやアルコールで得られるリラックス効果は一時的なものであり、時間が経つと再び不安感が強まります。また、依存性があるため徐々に摂取量が増えてしまうことも問題です。
また、カフェインにも不安を強くする作用があるため、カフェインを摂ると胸がドキドキしたり、不安感が強まったりする方はできるだけ摂取を控えましょう。
パニック障害は、有病率1%で、女性に多い病気です。症状が多彩で、まずは身体の病気かどうか、診察が必要です。また、パニック障害は、動悸や不安、めまい、過呼吸などのパニック発作だけでなく、予期不安と広場恐怖から、車や電車に乗れない、人が多いところへ外出することが不安など、日常生活や社会生活で支障をきたすことにも問題があります。症状が軽い時期から治療すると回復が早く、日常や社会生活への影響も少なく済むため、気になる症状がある場合は早めにご相談ください。