一般的に、妄想性障害では重度の障害が引き起こされることはありません。妄想が仕事に関係しない限り、たいていの場合では仕事の継続が可能です。
「妄想性障害」とは、1つまたはそれ以上の誤った強い思い込み(妄想)が1か月以上続き、日常生活に支障を来す病気です。中高年以降の発症が多く、高齢者では抑うつ症状・幻覚が認められ、イライラや不機嫌になることもよくあります。
認知症・統合失調症など似た病気でも妄想症状がみられるケースがありますが、「妄想性障害」では「妄想」が主症状であり、それ以外では目立ったり奇妙だったりする行動は見られません。
高齢者の妄想性障害では「嫌がらせをされる」「物を盗られる」といった妄想が多く、本人の日常生活に即した「いかにもありそうな内容」となります。また、妄想の対象が配偶者・家族・隣人など身近な人となりやすい傾向があります。
妄想を強く信じ込むことにより、人間関係のトラブルに発展して、社会的孤立や経済状況の悪化に繋がる可能性がある一方で、本人は病気だという自覚がないため、治療・受診を拒否するケースも少なくありません。
妄想性障害ではご家族や周りの方のサポートを得ながら、環境を整えていくことが重要です。
当院では、患者さんの妄想を頭ごなしに否定するようなことはしないで、一緒になって向き合い、医師と患者さんの良好な関係構築に努めています。お気軽に当院までご相談ください。
「こんな風になったらいいな」「こうだったら嫌だな」など、実際に起こっていないことを頭の中で想像するということを「妄想」と呼ぶ場合もありますが、医学上の「妄想」は定義が異なります。
精神医学上の「妄想」とは、以下のような条件が揃ったときを指します。
妄想性障害は、米国精神医学会による診断基準「DSM5(精神疾患の診断・統計マニュアル)」の中で、以下のように定められています。
妄想性障害に限った患者数は、統計上明らかにされていませんが、生涯有病率は約0.2~0.4%と推定されています。
高齢者の妄想性障害では、以下のような特徴があります。
認知症・統合失調症・老年期うつ病などでも妄想症状が現れる場合がありますが、症状の中心とはなりません。
なお、高齢者では軽い認知症を併発することがあるので、注意が必要です。
妄想性障害の主症状は「妄想」です。
ただし、高齢者の場合では、抑うつ症状や妄想に関連した幻覚、イライラ、不機嫌といった症状が現れることが多いです。
仕事・結婚生活といった社会生活において問題となりやすく、さらに妄想の域を超え、何らかの行動を起こす(行動化)ようになると、自傷他害などのリスクが大きく上昇します。
妄想性障害は妄想内容により、主に以下の5つのタイプに分類されています。
ある実在する人物が自分に恋愛感情を持っているとする妄想。
(例)「あの芸能人・有名人が自分のことを愛している」と思い込む
自分には卓越した能力・才能があるというような妄想。
(例)自分は歴史に残る偉大な発見をした、自分と著名人は特別な関係である
配偶者や恋人が不倫・浮気していると確信する妄想。嫉妬から暴言・暴力へ発展することがあります。
(例)少し衣服が乱れている、少し帰宅が遅くなった、メールが来たなど些細な変化を「不倫の証拠」として強く思い込む
最もよくみられるタイプ。嫌がらせ・陰謀を企てられて、自分は被害を受けたという妄想。
(例)隣の人が大きな音(騒音)を出して嫌がらせをしている
自分の身体の特徴・感覚などに対する妄想。
(例)自分は悪臭を放っている、顔が醜いと思い込む
今のところ、妄想性障害の原因は、はっきりと分かっていません。
しかし、妄想性障害は単身者や社会的に孤立している方の発症が多くみられることから、妄想成立の背景に何らかの関係があると考えられています。
似たような症状が起こる身体的疾患や精神疾患との鑑別が必要となります。以下のような検査を行い、総合的に診断します。
どのような症状(妄想)があるのか、日常生活でどんなことが困っているのかなど、詳しくお伺いします。また、患者さんが自身の妄想に従って行動するような潜在的危険性を評価します。
妄想性障害が、他の疾患(アルツハイマー型認知症、てんかん、強迫症、せん妄など)によって引き起こされていないということを確認します。必要に応じて、次のような検査を行います。
今のところ、妄想性障害に有効な治療法は分かっていません。一般的には、統合失調症に準じた薬物療法がおこなわれています。また、患者さん、ご家族と共に妄想など症状への対処法を考えていきます。しかしながら、妄想性障害では、家族のサポートなど周りの助けを拒否することが多く、病気を自覚していないため医療機関への受診自体が困難であるという傾向があります。行動化リスクが高いと判断された場合には、入院治療を検討します。
※必要に応じて、対応病院をご紹介します。
抗精神病薬を用いて症状を軽減させます。ただし、妄想性障害はお薬への反応があまりよくありません。お薬で完治を目指すのではなく、「病気と折り合いをつけていくこと」がポイントとなります。
また、ご高齢の方では持病を多く抱えている場合が多いので、他のお薬との飲み合わせに注意しながら処方していきます。受診の際には「おくすり手帳」をご持参ください。
患者さん・ご家族の抱えている悩み・不安に対して、対処法を一緒に考えていきます。
妄想性障害の治療には、医師と患者さんの良好な関係が不可欠です。
当院では、まずは患者さんご家族から困りごとなど事情を伺います。対応策をあらかじめ検討した上で、受診してもらえるように努めています。
また、治療中は患者さんの妄想を頭ごなしに否定するようなことはせず、一緒になって向き合います。
良好な関係を確立しながら、治療継続のための病気への自覚、合併症の管理などを進めていきます。
一般的に、妄想性障害では重度の障害が引き起こされることはありません。妄想が仕事に関係しない限り、たいていの場合では仕事の継続が可能です。
しかし、診断の結果、行動化によって自他へ危険が及ぶ可能性があると判断されたときには、入院治療が必要となることがあります。
次のようなポイントに注意しましょう。
妄想性障害の患者さんの中では、妄想は実際に体験していることだと思っているので、不安・恐怖でいっぱいになっています。
そのため、ご家族や周りの方は、妄想に対して事実の確認をするのではなく、患者さんのつらい気持ちに共感する姿勢を示して、安心させてあげることが大切です。「あなたの味方」だということが伝われば、本人の気持ちは少しずつ落ち着いていきます。
ご本人が少し落ち着いてきたら、専門の医療機関へ受診しましょう。ご家族も通院に同行して、家でのご様子・心配事を医師にご相談ください。
また、精神科などの受診に対して強い抵抗がある場合は、かかりつけ医やお近くの保健所に相談されると良いでしょう。それらの機関を経由して、精神科への受診を提案してもらう方法もあります。
当院ではかかりつけの他院の先生や地域包括支援センター、ケアマネジャー、介護施設と連携をとって、包括的に患者さんをサポートしています。
病気が長期化して肉体的・金銭的・時間的な余裕がなくなることで、サポートするご家族の抑うつ状態や患者さんへの虐待などに繋がってしまうケースがあります。
当院では、医師以外に精神保健福祉士・社会福祉士なども在籍しています。ご家族からの相談もお受けしていますので、お悩みや分からないことがあれば、何でもご相談ください。
妄想性障害は、患者さんに病気である自覚がない事がほとんどで、ご家族が医療機関への受診を進めても拒否することが多い疾患です。当院では、なかなか患者さんが受診出来ない場合、精神保健福祉士による家族相談(自費:30分3300円)も実施しています。また、妄想性障害は認知症に伴う妄想とも区別がつきづらい疾患です。当院では、妄想性障害が疑われる方には、出来る限り、認知機能の評価も行うようにしています。気になる症状がございましたら、気軽にご相談ください。