いいえ、CPAP治療は「やめることも可能」な治療法です。
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夜しっかりと寝ているのに日中異常に眠かったり、隣で寝ている配偶者やパートナーから「いびきがうるさい」「寝ていて、呼吸が止まっているときがある」と指摘されたりしたことはありませんか?
もしかしたら、それは「睡眠時無呼吸症候群」が原因かもしれません。
睡眠時無呼吸症候群とは、寝ているときに呼吸が止まる(無呼吸)、または呼吸が止まりかける(低呼吸)状態を繰り返す病気です。
睡眠呼吸障害のひとつで、英語の「Sleep Apnea Syndrome」から頭文字を取って「SAS(サス)」と呼ばれることもあります。
睡眠時無呼吸症候群の代表的な症状として「いびき」があるため、「太り気味の男性の病気」というイメージがあるかもしれませんが、痩せている方や女性・お子さんでも発症します。
睡眠時の無呼吸の大半は、空気の通り道(上気道)の閉塞といった物理的な原因によって引き起こされていますが、脳にある呼吸を司る機能の異常によっても起こります。
また、睡眠時無呼吸症候群の方では、そうでない方と比べて交通事故の発生率が高く、重症になるほど命に関わる可能性のある合併症(脳卒中・心筋梗塞など)を引き起こしたりするリスクも高くなるため、早期発見・早期治療開始が必要です。
睡眠時のいびきや無呼吸を指摘されたことがある方、十分寝たはずなのに日中に強い眠気がある方、目覚めると疲労感・頭重感(頭が重くて締め付けられる感じ)がある方は、当院までお気軽にご相談ください。
以下の項目に当てはまる数が多い程、睡眠時無呼吸症候群になりやすい傾向があるので、注意が必要です。
肥満になると、体だけでなく舌・喉(のど)周りにも脂肪が付きます。特に急に太った方や学生時代と比べて10kg以上太った方は要注意です。
男性はお腹がポッコリとした内臓脂肪型肥満になりやすいため、女性と比べてSAS発症率は約2~3倍です。
女性ホルモンには気道を広げる作用があることから、女性は首の脂肪による気道狭窄(狭くなること)は起こりにくいです。しかし、女性ホルモンが減少した閉経後は、閉経前に比べて発症リスクが約3倍に増加して、男性とあまり差がなくなります。
高血圧や心不全、不整脈、脳卒中などの心血管疾患がある方は、睡眠時無呼吸症候群の主な原因となる「気道の閉塞」だけでなく、「呼吸中枢の異常」が原因となる睡眠時無呼吸症候群(中枢性)を合併するリスクが高くなります。
扁桃腺やアデノイド(鼻の奥にあるリンパ組織)が大きいと、気道が狭くなりやすいです。一般的に大きさは幼少期にピークを迎え、次第に小さくなっていきますが、大人になっても小さくならない場合があります。
「睡眠時無呼吸症候群」とは、寝ているときに呼吸が一時的に止まったり、止まりかけたりすることを繰り返す病気です。睡眠時無呼吸症候群を発症すると、きちんと寝ていると思っていても、実際は就寝中に何度か無呼吸・低呼吸を繰り返しているので、深い睡眠が取れなくなり、日中に強い眠気が出るなど社会生活に影響を及ぼします。
その結果、睡眠時無呼吸症候群ではない人と比べて、交通事故の発生頻度が高いとする報告があります*1。
*1(参考)睡眠時無呼吸症候群と交通事故|日本内科学会雑誌第109巻第6号
日本の睡眠時無呼吸症候群の成人患者数は、推計約900万人以上とする報告があります。ただし、発症してもご自身では気づきにくく、他の人から指摘されても「医療機関の受診」に結び付きにくい傾向があります。実際に治療を受けている患者さんは50万人にも達していません。
睡眠時無呼吸症候群は放置すると、次第に重症化していくことが分かっています。さらに、毎晩呼吸が止まって低酸素状態になると、心臓・脳・血管に負担がかかりやすくなります。
診療ガイドラインによると、睡眠時無呼吸症候群患者さんの心血管疾患の合併リスクは、そうでない方と比べて約2~4倍高くなっています。
以下のような合併症の危険があります。
睡眠時無呼吸症候群では、次のような症状が現れます。
「いびき」が出るというのは、気道が狭くなっている証拠です。空気が狭い気道を通るとき、喉(咽頭)が振動するので音が生じます。
※「中枢性睡眠時無呼吸症候群」では気道の狭窄・閉塞が原因ではないので、基本的にいびきは現れません。
上気道が塞がると、呼吸が一時的に止まります(無呼吸)。目が覚めて呼吸が再開するときには、無意識に大きく息を吸うことになります。また、無呼吸中は酸素不足になるため、心臓に負担がかかります。
本人には起きた自覚はなくても、無呼吸からの呼吸を再開するたびに脳は「覚醒状態」となります。そのため、十分な睡眠時間を取ったとしても熟睡できていないので寝不足と感じます。
途中で目覚めたときに、寝汗をかいていたり寝相が悪かったりすることがあります。
無呼吸時は一時的な「酸欠状態」となっているため、スッキリ目覚められません。低呼吸・無呼吸を繰り返しているので、実際は脳・体の休息が取れておらず、集中力が低下します。
寝ているときに口呼吸になっていると、喉が乾燥します。
睡眠時無呼吸症候群は、原因から大きく2種類に分けられます。
喉の空気の通り道「気道」が狭くなったり塞がったりすることによって、無呼吸・低呼吸が起こります。また、呼吸の際に「いびき」として音が鳴ります。なお、睡眠時無呼吸症候群の約90%は「閉塞性」なので、一般的に「睡眠時無呼吸症候群」というと、「閉塞性」睡眠時無呼吸症候群を意味することが多いです。
脳の呼吸機能に異常を来すことによって引き起こされるタイプの睡眠時無呼吸症候群です。発症に占める割合は1%以下です。原因は物理的な気道の狭窄ではないので、「いびき」をかかないケースもあります。
ほかに、閉塞性および中枢性の両方の要因が複合的にみられる「混合型」のケースが約10%あります。
気道が狭くなったり塞がったりする要因には、以下のようなものがあります。
SAS最大の危険因子なのが、「肥満」です。首周りの脂肪(気道の周りの軟部組織)が増加すると、上気道が狭くなります。
日本肥満学会では、BMI25以上を肥満と定義しています。
※BMI=体重(kg)÷身長(m)2
お子さんのSASの主な原因です。扁桃およびアデノイドの大きさは通常6歳頃をピークとして10歳頃には縮小していきますが、子どもの頃に扁桃炎などを繰り返している場合では、大人になっても小さくならないケースがあります。
主に加齢による筋肉の低下に伴い、舌の根元が喉(咽頭)に落ち込んでしまいます。
日本人を含むアジア人では顎の小さい人が多く、日本のSAS患者さんのうち約30%を占める要因です。顎の小さい人では気道面積がそもそも狭いので、日本人としては肥満と言えない程度の体重増加でも発症のリスクが高まります。
いわゆる「喉ちんこ」が喉に落ち込んでしまうことです。
鼻腔を左右に分ける壁(鼻中隔)が曲がっている「鼻中隔弯曲症」や、「アレルギー性鼻炎」「慢性副鼻腔炎」などの病気があると、鼻づまりになりやすく、気道狭窄の要因となります。
アルコールを飲んでから眠ると、上気道を広げる筋肉が緩んだり、鼻・喉(咽頭)の通気が悪化したりするので、上気道が塞がって無呼吸になりやすくなります。
脳の呼吸を制御する機能(呼吸中枢)に異常を起こす要因には、心不全などの心血管疾患や甲状腺機能低下症があります。
脳からの「呼吸に対する指示」がうまく伝わらないので、中枢性睡眠時無呼吸症候群特有の呼吸パターン「チェーン・ストークス呼吸」が現れます。
主な特徴は以下の通りです。
当院では、日本呼吸器学会による睡眠時無呼吸症候群の診療ガイドラインに準拠した検査を行っています。
睡眠時無呼吸症候群では、一晩あたりの無呼吸の回数・無呼吸時間など重症度によって、適応となる治療方法が異なります。
睡眠中の呼吸状態を評価する検査には、「簡易検査」「精密検査」の2種類があります。
日中の眠気や喫煙・飲酒といった生活習慣、既往症(特に心血管障害)などについて詳しくお伺いします。問診から睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合には、簡易スクリーニング検査を行います。
指先に体内の酸素飽和度を測定する機器(パルスオキシメーター)を付け、鼻の下に呼吸を感知するセンサーを付けて、ご自宅でいつも通り眠るだけでOKです。当院で実施可能な検査です。
簡易検査では睡眠中の無呼吸の回数、血中酸素濃度、いびきの状態などから評価します。
AHI(1時間あたりの無呼吸・低呼吸の合計回数)が40以上の重症例では、すぐに健康保険を適用しての治療を進めます。一方、AHIが40未満の場合には、さらに詳しい精密検査を行って、治療の必要性・治療法を検討します。
なお、うっ血性心不全を合併する循環器疾患をお持ちの方では、簡易検査ではなく精密検査にて、睡眠障害の確定診断を行うことが望ましいとされます。
(図)睡眠時無呼吸症候群の簡易検査イメージ
簡易検査の結果から「睡眠時無呼吸症候群」と診断された場合には、終夜睡眠ポリソムノグラフィー検査(PSG)により呼吸状態を詳しく調べます。
終夜睡眠ポリソムノグラフィー検査では、脳波、酸素飽和度、心電図、目・顎の筋肉の動き、鼻や口に入る空気の流れ、胸部・腹部の動きなどを調べる様々なセンサーを装着して、一晩眠ります。たくさんのセンサーを身体に付けるので動きにくくはなりますが、痛みを伴う検査ではありません。
また、専門病院へ入院する必要がありますが、1泊入院(夜入院して翌朝退院)となる病院も多いので、仕事に支障を来すことは少ないです。
※終夜睡眠ポリソムノグラフィー検査が必要となる場合には、対応病院をご紹介します。
(図)終夜睡眠ポリソムノグラフィー検査イメージ
次の条件に当てはまる場合には、「睡眠時無呼吸症候群」と診断します。
また、重症度はAHIの回数で評価します。
AHI(回) | 重症度分類 |
5~14 | 軽症 |
15~29 | 中等症 |
30 | 重症 |
(表)睡眠時無呼吸症候群の重症度分類
睡眠時無呼吸症候群の治療法は、大きく分けて4つあります。
「生活習慣の改善」を図りつつ、「CPAP療法」「マウスピース療法」で症状を改善させ、扁桃・アデノイド肥大があれば「切除手術」を行います。
また、中枢性睡眠時無呼吸症候群の場合には、原因となっている心血管疾患の治療を優先して行います。
「閉塞性」睡眠時無呼吸症候群の患者さんでは、発症に生活習慣の乱れが大きく関与していることが多いので、以下のように生活習慣を変えるだけでも、寝ているときの無呼吸・低呼吸の軽減が期待できます。
生活習慣を見直して、肥満を解消しましょう。
ただし、リバウンドすると、再び無呼吸・低呼吸になりやすくなるので、減量後も体重維持に努めることが大事です。
天井を向いた仰向け体勢は、舌・咽頭の筋肉・軟口蓋などに重力がかかり、気道が狭くなる、塞がることがあります。
<横寝姿勢を保つテニスボール法>
※寝返りを打つと、ボールが邪魔で仰向け寝をしにくくなります。
喫煙は、血中酸素の低下に繋がります。また、喫煙習慣によって喉の炎症を起こすため、無呼吸を悪化させることがあります。
寝る前のアルコールは少量でもいびき・無呼吸を悪化させることがあるので、晩酌を控えましょう。また、睡眠導入剤などのお薬は喉の筋肉を緩める作用により、気道を狭くする場合があります。服用されている方は、一度主治医にご相談ください。
※自主判断で薬を中断することは危険です。薬を控える前に必ず医師へご相談ください。
寝る時にマウスピース(スリープスプリント)を装着します。下あごを上あごより前に出し固定することで、気道を広げます。気道が広がるので、いびき、日中の強い眠気、酸素飽和度などの改善が期待できます*2。睡眠時無呼吸症候群の診断が付いた方では、健康保険が適用されます。
*2(参考)2023年改訂版 循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン P.40
【適応となる方】軽症~中等症まで(簡易検査でAHI≦25回くらい)
※マウスピースは、歯科医院にて作成いただきます。必要な場合には対応医院をご紹介します。なお、マウスピース作成には確定診断および診療情報提供書が必要となります。
重症の睡眠時無呼吸症候群に対する世界的標準治療に「CPAP(シーパップ)」があります。
CPAPとは「Continuous Positive Airway Pressure」の頭文字で、日本語では「経鼻的持続陽圧呼吸療法」と呼ばれます。鼻にマスクをして、ベッドサイドに置いた機械から圧力をかけて、持続的に気道へ空気を送り込むことで、無呼吸を防止する治療法です。
重症の方は健康保険にて治療可能です。
【適応となる方】簡易検査でAHI>40もしくは精密検査(PSG)でAHI>20、ならびに月1回の外来受診可能な方
【費用の目安】自己負担3割の方:約5,000円弱(毎月)
※CPAP機器はレンタルです。
気道を狭くする原因にアデノイド肥大(咽頭扁桃肥大)や口蓋扁桃肥大がある場合には、手術による切除・摘出術が有効です。
手術は全身麻酔で行われ、約1週間程度の入院が必要です。
※必要に応じて、対応可能病院をご紹介させていただきます。
【適応となる方】アデノイド肥大(咽頭扁桃肥大)や口蓋扁桃肥大が原因の方
いいえ、CPAP治療は「やめることも可能」な治療法です。
減量により首周りの脂肪を落とすことで、睡眠時無呼吸・低呼吸の改善は期待できます。
アメリカの論文で、約10%の体重減少により睡眠時の無呼吸・低呼吸指数が約26%減ったとする発表があります*3。
*3(参考)Longitudinal Study of Moderate Weight Change and Sleep-Disordered Breathing
とはいえ、睡眠時無呼吸症候群の患者さんの多くで、日中の眠気・だるさから効果的に運動することが難しいという問題があります。
この問題を解消するには、まずCPAP治療を行い、無呼吸を改善させて日中の眠気をなくすことが大事です。眠気がなくなれば、日中の活動性が改善され、積極的な運動習慣に繋がります。そして、CPAP治療と並行の上、食事療法や運動療法にて無理なく減量して、気道の閉塞・狭窄がなくなれば、CPAP治療を「卒業」できる可能性はあります。
睡眠時無呼吸症候群の発症予防として、3つのポイントがあります。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者さんでは、「肥満の解消」が第一の治療です。また、アルコール摂取や睡眠薬の服用は、無呼吸を悪化させやすいので、制限することが望ましいと考えられています。規則正しい生活、適度な運動を心がけましょう。
※お薬を自己判断で中断することは、大変危険です。減量希望などは主治医に相談の上、医師の指示に従うようにしましょう。
鼻づまりがあると、閉塞性睡眠時無呼吸症候群を悪化させます。花粉症などアレルギー性鼻炎があるときには、耳鼻咽喉科で治療しておくと良いでしょう。
仰向け(天井を向いて寝る)に寝ると、重力で舌が喉の奥に落ちやすく、上気道を塞いで無呼吸・低呼吸が悪化する傾向があります。横向きに寝ることで、舌の沈下を防げます。
睡眠時無呼吸症候群は、自覚しにくい病気で、家族やパートナーにいびきや無呼吸を指摘されて気が付かれる方が多いです。自覚症状として、日中の眠気、起床時の頭痛や倦怠感などみられる方は、睡眠時無呼吸症候群に注意が必要です。また、睡眠時無呼吸症候群は認知症のリスクの一つです。当院では、簡易型ポリソムノグラフィー検査やCPAP治療が可能です。気軽にご相談ください。