エーザイのアルツハイマー病の新薬、レカネマブについて

  • 2022.12.04

なかなかブログを更新できず申し訳ありません。

ここ最近、患者さんやご家族から、レカネマブの質問をよく受けます。

レカネマブは、アルツハイマー病の原因とされる脳内のアミロイドβを除去することを目的とした抗体療法です。エーザイと米Biogen社が先日、第3相試験で、主要評価項目を達成したため、話題となっています。

どんな研究だったできるだけ、簡単に書きますと、

アルツハイマー病で軽度認知障害から軽度の認知症の方を対象に、レカネマブを2週間に1回静脈注射する群と、プラセボを2週間に1回静脈注射する群に、無作為に分け18カ月投与し、どれだけ進行を遅らせるか、安全性はどうかを検討しています。 以下が、主要評価項目の結果のグラフです。*https://www.eisai.co.jp/news/2022/pdf/news202285pdf.pdf

有効性に関しては、主要評価項目である投与18 カ月時点のCDR-SB スコア(全般的な評価)のベースラインからの平均変化量について、レカネマブ投与群、プラセボ投与群はそれぞれ1.21、1.66 であり、その変化量の差は-0.45(P = 0.00005)となり統計学的に有意な結果が認められ、レカネマブ投与群はプラセボ投与群と比較して27%の全般臨床症状の悪化抑制を示したと報告されています。

安全性の面では、静脈注射に伴う有害事象(レカネマブ:26.4%、プラセボ:7.4%)、MRIで確認される脳の微小出血(レカネマブ:17.3%、プラセボ:9.0%), MRIで確認される脳の浮腫(レカネマブ:12.6%、プラセボ:1.7%)、頭痛(レカネマブ:11.1%、プラセボ:8.1%)および転倒(レカネマブ:10.4%、プラセボ:9.6%)などが報告されています。また、試験期間中における死亡例はレカネマブ投与群で 0.7%、プラセボ投与群で 0.8%でしたが、レカネマブやアミロイド関連画像異常(ARIA)発現に関連する死亡例はなかったと報告されています。重篤な有害事象の発現率は、レカネマブ投与群で 14.0%、プラセボ投与群で 11.3%と報告されています。

これらの結果は、18カ月という限られた期間の研究でありより長期間での有効性や安全性の検討が必要になると思われます。

私見では、レカネマブの一つ前に発表されたアデュカヌマブが、高用量においてのみ22%進行を遅らせるという結果だったので、直接的に比較はできませんが、個人的にはレカネマブの方がアデュカヌマブよりやや期待値が高いです。しかし注意しないといけないのは、“27%進行を遅らせる”ということは、“73%は進行する”ことです。

ちなみに、現在ある治療薬の一つ、ドネペジルのアルツハイマー型認知症の臨床試験(24-26週)のメタ解析の結果では*、CDR-SBの変化量は-0.53と報告されています。研究間で対象・治療期間も異なるので、安易に比較できるものではありませんが、実感する効果は、これに近いのかな・・・と、個人的に空想しています。

そして、おそらくは最大の問題は費用対効果だと思っています。

費用対効果とは、その薬の安全性と有効性が、価格に見合っているかという考え方です。

前述のアデュカヌマブの場合は、価格が約3000ドル(1ドル140円換算で約42万円)/年未満に下がらないと費用対効果は良好にはならないことが、アメリカで行われた最近の研究から示唆されています。**

ちなみに、2021年12月時点でアデュカヌマブの薬価が約2.8万ドル(1ドル140円換算で約390万円)/年でしたので、非常に高額で費用対効果を考えると現状は厳しい印象です。アメリカの研究なので、日本に直接は当てはまりませんが、参考にはなりそうですね。日本円で約3.5万円/月未満に薬価が下がると費用対効果として良好となるのでしょうか・・・日本での費用対効果の研究結果もはやく知りたいところです。

私見ですが、その効果は絶対的ではないものの、進行を遅らせる作用が確実にあることから、国民すべてでの使用は国の財政や費用対効果から難しいのかもしれませんが、できれば、若年性のアルツハイマー病の方や、遺伝性のアルツハイマー病の方には、使用できるようになってくれたらなと思っています。

今後の、各国の評価ははたしてどうなるのか・・・

*Birks at al. Cochrane Database Syst Rev. 2018 Jun 18;6(6):CD001190.

**Eric L. Ross et al. JAMA Neurol. 2022;79(5):478-487. doi:10.1001/jamaneurol.2022.0315

PAGE TOP