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2024.08.18

アルツハイマー病の新薬「ドナネマブ」について

皆さま、暑い夏をいかがお過ごしでしょうか。

最近、患者さんやご家族よりアルツハイマー病の新薬「ドナネマブ/donanemab 」についての質問がふありましたので、簡単に臨床試験の結果や、私見についてお話ししたいと思います。

2024年8月1日に、厚生労働省の専門部会でアルツハイマー病治療薬「ドナネマブ」の承認が了承され、今後、正式承認される見通しとの報道がありました。

ドナネマブは、先日承認されたレカネマブと同じく、アミロイドβをターゲットとした抗体療法になります。レカネマブとの違いは、レカネマブが主にアミロイドβが凝集する過程のプロトフィブリルに作用するのに対して、ドナネマブは主にアミロイドβが凝集したアミロイド斑に作用し(図1)、アミロイド班を除去することで進行を遅らせる効果が期待されています。

ドナネマブの臨床試験(第3相試験「The TRAILBLAZER-ALZ 2」*)は、日本を含む世界各国で行われ、1736名のアルツハイマー病(軽度認知障害~軽度認知症)の患者さんを対象に行われました。臨床試験では、76週のプロトコールで、ドナネマブは4週に1回の静脈注射、投与期間は最大72週間、治療経過のなかでアミロイド斑量を測定し、既定のアミロイド斑量を下回った場合は投与終了となっています。

主な有効性の評価では、ドナネマブはプラセボと比較して22.3%進行を遅らせる効果を認めています。このうち、低・中タウ病変群(アルツハイマー病の原因の一つと考えられるリン酸化タウの蓄積が軽症~中等度のサブグループ)では、ドナネマブはプラセボと比較して35.1%進行を遅らせる効果を認めています。

安全性の評価では、死亡者がドナネマブ群で16名、プラセボ群で10名(うち治療関連した死亡者と考えられる方がドナネマブ群で3名、プラセボ群で1名)と、ややドナネマブ群で多くみられています。MRIでみられるアミロイド関連画像異常(ARIA)はドナネマブ群で多くみられ、ドナネマブ群でARIA-H(MRIで確認される脳の微小出血)が31.4%、ARIA-E(MRIで確認される脳の浮腫)が24.0%とプラセボ群より有意に高くなっています。注射に関連する副作用はドナネマブ群で8.7%、プラセボ群で0.5%みとめています。

総合的に考えると、進行を遅らせる効果は全体で22.3%と高くはなく、安全性もARIAの発現率を見る限りは、決して安全性が高いとは言えないかと思います。死亡例もドナネマブ群の方がやや多いのが気がかりです。

一方で、比較的、タウの蓄積が少ない方で効果が高い点は、ドナネマブはアルツハイマー病の軽症例でより効果的である可能性があります。また、副次評価項目で、ドナネマブ群はわずかですが血中のp-tau217が低下しており、アミロイド斑の除去がタウ病理の軽減につながる可能性が示唆され、この点も興味深い結果です。

今後、国内で投与可能となった場合、レカネマブとの選択が課題となりそうです。どちらもそれほど進行を遅らせる効果が高いわけではありませんので、患者さんの重症度、安全性、投与頻度、検査頻度、費用なども判断材料となるかと思います。正式承認、プロトコールの発表を待ちたいと思います。

また、当院は2024年7月より、レカネマブのフォローアップ施設(6か月以降の治療が可能な施設)に認定されています。藤田医科大学病院 認知症・高齢診療科と連携しレカネマブ治療の相談も承っていますので、お気軽にご相談ください。

*Donanemab in Early Symptomatic Alzheimer Disease: The TRAILBLAZER-ALZ 2 Randomized Clinical Trial.

Sims JR, Zimmer JA, Evans CD, Lu M, Ardayfio P, Sparks J, Wessels AM, Shcherbinin S, Wang H, Monkul Nery ES, Collins EC, Solomon P, Salloway S, Apostolova LG, Hansson O, Ritchie C, Brooks DA, Mintun M, Skovronsky DM; TRAILBLAZER-ALZ 2 Investigators.

JAMA. 2023 Aug 8;330(6):512-527. doi: 10.1001/jama.2023.13239.

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